第4話:まあどっちにしても、考えてみても答えは出ないよなぁ
◆◇◆◇◆
一匠は帰宅して夕食後、自分の部屋で物思いにふけっていた。
その意味合いについて。
可能性としては──
瑠衣華が相談者。
理緒が相談者。
どちらでもない。
その3通りがあり得る。
もちろん『どちらでもない』が一番可能性が高いのだろう。しかし一度『2人のどちらかなのかもしれない』ということが頭に浮かぶと、ついついその可能性を考えてしまう。
相談者の文章の丁寧さからすると、それが理緒だとすればしっくりくる。
で、もし仮に瑠衣華か理緒が相談者だった場合、その相手は誰なのだろう?
やっぱりモテ男子の
まあ少なくとも自分じゃないことは確かだから、あんまり深く考えても意味ないか。ははは。
──と、一匠は心の中で苦笑いをする。
「まあどっちにしても、考えてみても答えは出ないよなぁ……」
思わず独り言を口にしてから、ふと気になってパソコンを立ち上げた。そして恋愛相談サイトのチャットログを覗き込む。
相談者のメッセージに付いた、小さな文字のユーザーネームを見つめる。
そこには『RA』と書かれている。
「アール・エー……理緒 青島……えええっっ!? やっぱ青島さんが相談者なのかぁーっ!?」
一匠は思わず叫んでから、また慌てて口を手で押さえた。
「うーむ、いかんいかん」
大声を張り上げたりしたら、一階の両親に不審がられる。この前も反省したのに、またやっちまった。
──と、一匠はふたたび反省。
しかし。それにしても。
このサイトのおかげで、驚くことが多い。
──いや待てよ。
と一匠はもう一度画面のユーザーネーム、RAを凝視する。
「むむむっ! 赤坂 瑠衣華もアール・エーだぞ……」
そう。クラス委員長も元カノもイニシャルは同じなのだと、今さらながらに気づいた。
「うっわ。どっち……なんだ?」
もちろん単なる偶然で、理緒も瑠衣華もどっちでもない可能性もある。ユーザネームに本名のイニシャルを使っているとも限らない。
しかし赤いアクセサリーとイニシャル。
二つも偶然が重なると、さすがにあの二人のどちらかが相談者ではないのかという気がして仕方がない。
一匠は戸惑いながら、チャット画面をじっと見つめていた。
「おわっ!」
その時突然チャット画面に文字がズラララララと現れて、一匠は驚いてひっくり返りそうになる。
『えんじぇるさん、こんばんは。いらっしゃいますか?』
ユーザー名RA。あの子だ。
『こんばんは。いますよ』
突然のメッセージに心臓がバクバクしているけど、一匠はなんでも無いかのような冷静なメッセージを返した。
『良かった。また相談に乗っていただけますか?』
これで、もしかしたら相談者の正体がわかるかもしれない。
そう思い、一匠はゴクリと唾を飲み込みながらキーボードを叩く。
『はい、もちろん』
『えんじぇるさんのアドバイス通りに赤いアクセサリを付けて、今日学校に行きました。だけど全然想いが伝わった気がしません』
やはりこの相談者は、ラッキーアイテムを実践したんだ!
その事実に一匠の心臓は、またバクバクと鼓動が高まる。
『好きな相手は、そのアクセサリに気づいていた?』
『はい、気づきました。でもそれだけでした……想いは全然伝わっていないと思います』
相談者は、好きな相手がアクセサリに気づいたと言った。もしも相談者が理緒か瑠衣華だとして。
(うーむ……今日一日で、俺も含めて誰がそれに気づいたのか調べようもないな)
一日中彼女たちをストーカーするわけにはいかない。だから理緒もしくは瑠衣華が、赤いアクセサリを見せたい相手が誰なのか、特定するのは無理だ。
(まあ俺ではないはずだし……いや待てよ。そのアクセサリがシュシュだったのかリボンだったのか、それを訊けば相談者を特定できるんじゃないのか?)
そう思い付いた一匠は、その質問を入力しかけた。しかし途中で、はたと手を止める。
この相談者は自分を信頼して、相談をしてくれている。なのにそんな、相手の正体を探るための質問をしてもいいものだろうか?
一匠は、それは何かが違うと感じた。
確かにこの相談サイトを開いた目的は、女心を学ぶという自分勝手な動機だ。しかしその過程では、本気で女の子の役に立つアドバイスをするつもりでいる。
自分の利益のためだけに行動するなんて、一匠にとっては悪でしかない。
アドバイスをした結果自分も学びを得ることと、興味本位で相手の正体を知ってその好きな男性を探ることは大きく違う。
アドバイスをする過程で、自然と相手がわかったのであれば、それは仕方がない。
しかしもしも偶然に相談者が誰なのかがわかったとしても、相談者のプライバシーを守ることがアドバイザーとしての責務だ。
一匠はそう考えるに至って、アドバイスに徹することにした。
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