匿名の恋愛相談サイトで、恋に悩む少女に俺がしてあげたアドバイス。 ~学校で評判の美少女が、アドバイスどおりのことを俺にしてくるんだが?
波瀾 紡
第一部:どっちだ?
第1話:はじめまして。高校1年の女子です。
「あれっ? もしかして……来た?」
女の子から、恋愛相談のメッセージが届いている。
──それが本物の女の子であれば、という話なのだけれども。
『はじめまして。高校1年の女子です。えんじぇるさんは本当に高校生なのですか?』
その書き込みを見て、一匠は思わず
「キターーーーっ!」
と叫んだ。叫んだ後に慌てて自分の口を押える。
彼の部屋は一戸建ての二階だが、あまり大声を出すと一階に居る両親に聞こえてしまう。「やばいやばい」と呟いた。
一匠が3ヶ月前に立ち上げた恋愛相談サイト。
正式名称を『現役男子高校生が男心を教えます 恋愛相談サイト えんじぇる』と名付けた。
そしてアドバイザーである現役男子高校生、つまり
そこに相談のメッセージが届いたのだ。
『はいそうです。バリバリの現役高校生ですよ』
胸は高鳴り、震える手でキーボードを打つ。
いや、相手が本当の女子高生なのかはまだわからない。前にネカマに騙されたことがある。
女の子からメッセージが来たと思ったら、やり取りをして10分後には『俺は男だよバーカ』と言われたのだ。とほほな話である。
だからもしかしたら偽物かもしれないと、自分に言い聞かせる。
期待が大きければ大きいほど、期待が外れた時の失望が大きいのは一匠もわかっている。
『よかった。同じ高校生だと、なんだか安心して相談できます』
どうやら真面目な子みたいで、素直に信じてくれた。いや信じてくれたも何も、一匠は本物の男子高校生なのだが。
『他のユーザーさんからは見えないので、なんでも気軽に相談してくださいね。何か悩み事があるの?』
メッセージが書き込まれているのは、他のユーザーからは見えない非公開チャットルームだ。
『私は同じクラスに好きな人がいるのですが、その人になかなか素直に想いを伝えることができなくて悩んでいます。私にはその勇気がありません。どうしたら良いのでしょうか?』
なるほど。彼女は引っ込み思案な性格のようだ。それに文章の感じが丁寧だし、きっと清楚でおしとやかなタイプの女の子なのだろう。
偽物という可能性もあるけど、直感的に本物という気がする。
──一匠はそう感じた。
『いきなり告白なんてハードルが高すぎて、誰だって難しいよね。さり気なく好意を伝えるところから始めたらどう?』
(俺だってチキンだし、いきなり告白なんてできない。いや普通は、ほとんどの人がそんなことはできないっしょ?)
一匠はそう思いながら、キーボードでの会話を進める。
『さり気なく伝える努力はしているのです。でもそれがなかなか上手くいかないのですよ……』
『ああしたらどう?』と一匠がアドバイスを送り、『それはもうやっています』とか、『それはなかなかできないのです』と相手が丁寧な文章で答える。
そんなやり取りが何往復か続いた。
(この子にホントに必要なのは、方法論よりも自信なのかも)
一匠はそう感じた。偉そうに言うものの自分だって同じだ。そこで一匠は、ふと思いついたことを書き込んだ。
『想いが伝わるラッキーアイテム、教えましょうか?』
一匠は占いが好きで、よく当たると評判の占いサイトを毎日チェックしている。それでそんなことが頭をよぎったのだ。
『ぜひお願いします!』
速攻で返事が書き込まれる。相談者は結構食いついているようだ。
『生まれの星座を教えてもらえるかな?』
『乙女座です』
乙女座か。何となくこの子の丁寧さとか控えめなところが、ぴったりな感じがする。
そんなことを考えながら、一匠はお気に入りの占いサイトをチェックした。
「ん……これか」
お目当ての項目を見つけて、チャットに書く。
『乙女座の明日のラッキーアイテムは赤いアクセサリー。あなたが身につけた赤いアクセサリをあなたが好きな人が見たら、その想いが伝わるっていうラッキーアイテムです』
『ありがとうございます! 早速試してみます。また相談させていただいてよろしいですか?』
相談相手の子は嬉しいことを言ってくれた。一匠は『もちろん』と答えて、この日のチャットは終えることになった。
「また相談したい……か」
もちろん話半分に受け止めようとは思う。相手は本当に高校生かどうか、女子かどうかさえも不確かなのだ。けれども頼られる感じってのは悪くないもんだな。
一匠はそう思いながら、恋愛相談サイトの画面を閉じた。
実は白井一匠は中学3年の時に1ヶ月だけ付き合った女の子にフラれた。
今でもなぜ突然フラれたのかわからない。
そして一匠が今まで女の子と付き合った経験は、ただその一回だけ。
だから少しでも女の子の気持ちがわかるようになりたいと思った。
そこで一匠は高校に入るまでの春休みに、特技のウェブサイト制作知識を活かして女の子向けの『匿名恋愛相談サイト』を立ち上げた。
そこにようやく、まともそうな相談者が現れたのだ。
だから一匠は、少し嬉しい気分になった。
◆◇◆◇◆
翌朝。
高校に登校して、
入学して丸2ヶ月経った今は、ある程度の仲良しグループができている。
しかし元々コミュニケーションがそんなに得意ではない一匠には、特に仲が良い友達はまだいない。だから一人で席に座っていた。
机に向かってぼんやりしていたら、右隣の席の椅子が引かれる音がした。隣の
しかし一匠は、あえてそちらを振り向かない。
実は瑠衣華こそが、中学の時に一匠と1ヶ月だけ付き合い、別れた元カノなのである。
+++++
それは中学3年の2月の終わりのことだった。一匠は突然瑠衣華から『付き合ってください』と告白された。
瑠衣華は分厚いメガネをかけてボサッとした黒髪、長めのスカートといった、いわゆるオタクっぽい目立たない女の子だった。
一匠は彼女を特に好きというわけではなかったけど、なんとなくいい人だとは思っていた。
自分も目立たないタイプだし、大人しいことはマイナス点ではない。それに女子と付き合うということに憧れもあった。
だから一匠は『いいよ』と即答した。
それから何度か二人で会ったりしたけど、中学の卒業式の日に、これまた突然『別れてください』と言われてフラれた。
わけがわからなかった。何か悪いことをしたかと思い返したけど、思い当たることはない。
もしかしたら自分が気づかない内に、彼女を傷つけるようなことをしていたのかもしれない。
なんと言っても女の子と付き合うのに慣れていないのだから、その可能性もある。
だから一匠は、また『いいよ』と即答した。
付き合い出す時も別れる時も、お互いにとってもシンプルだった。シンプル・イズ・ベストと言うし、きっとこれで良かったのだろうと一匠は思った。
だけど春休みになって色々と考えるうちに、これではダメなのではないかと思い始めた。
別れに対してあんなに淡白なのも良くなかっただろうし、女の子の気持ちがわからないと言って、そのままにしておくのも良くないはずだ。それにやっぱり、ちゃんとした恋もしてみたい。
だから少しでも女心を理解する糧になればと、恋愛相談サイトを開設したのだった。
+++++
隣の席に座った"元カノ"
それで一匠は、ついチラッと瑠衣華に視線を向けてしまった。普段はできるだけ彼女とは話さないし、見ないようにしているのに。
机の上に置かれた瑠衣華の腕。その手首には──赤いシュシュがはめられていた。
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