47-2

「悪いわね。突然」

「いえ……」

 ――どうしてこうなったのだろうか? 図らずも突然親御さんへのご挨拶状態になり、俺は何を言われるのかと完全にビビり切っていた。

 

「確認したいんだけど……あなたは『池場谷ケイ』の息子、で間違いないわよね?」

「へ?」

 だがそんな中、立さんの口から出てきたのは、まさかの親父の名前だった。


「父をご存知なんですか?」

「ええ。あなたの今のお母様……『鳴』共々、私たちは古い知り合いなのよ」

 予想外の質問に思わず問い返すと、これまた新しい情報が返ってきた……ん、待てよ。『今の』ってことは……


「あの……もしかして、とも?」

「ええ。『アイ』さんにも昔色々とお世話になったわ」

 ――まさかと思いその質問を尋ねると、案の定だった。


「あの人の子供がうちの娘と仲良くしてるなんて、世の中狭いものね……」

「そうですね……」

「しかしが、か……ホント、血は争えないわね」 

 呆れたように溜息を吐く立さんに同意するも、立さんは何やら感慨に浸るような様子で何かを小さく呟いている。



「え?」

「ああ、なんでもないわ、こっちの話よ……ユキ! ちょっといい?」

 よく聞こえなかったので聞き返すも、立さんは一方的に話を切り上げ、突如天橋を呼び出す。



「なに、どうかしたの?」

「話は終わったから後はもういいわ。あんた今日はもう上がりでいいわよ。折角戒くんが来てくれてるんだから、どこか出掛けてきなさい」

「「はい?」」

 その言葉に声を揃えて呆然としながら、またも俺と天橋は顔を見合わせるのだった。





「ごめんね、池場谷くん。お母さんが強引に……」

「いいよそんなの」

 ――行く当てもなく近所をぶらつく中、半ば強引に店を追い出されたことを詫びる天橋に、気にしないよう告げる。


「でも……」

「気にすんなって。すぐに帰っても変に思われるし、どっかで時間潰していこうぜ?」

 尚も謝る天橋を制し、お誘いの言葉を掛ける――実際成り行きとはいえ、天橋とデートできるなんてマジで渡りに船だった。


「……うん!」

 満面の笑顔で、天橋が応える――これが見られただけでも、立さんには感謝しかなかった。





 ――数時間後。

「あー、歩いた歩いた。しかしあっちぃなーホント……」

「そうだね……」

 その辺をブラブラとしながら時間を潰していた俺たちだったが、いい加減歩き疲れて、その辺のベンチに腰を下ろしていた。


「でもまあこうして歩くだけってのも意外と悪くないな」

「うん……わたしもそう思う」

 結局どこに行くでもなく適当に歩き回っていただけなのだが、好きな子と過ごす時間というのは、ただそれだけでも楽しくて仕方がないから本当に不思議だ。



「……あのさ、天橋は知ってたのか? うちの両親と立さんが知り合いだったって」

「え、そうなの?」

 話題が途切れたので、ふと思い出したように今日聞いた話を振る――だが、天橋は初耳といったような風だった。


「ああ、そうらしいよ」

「ふ~ん、そうなんだ。ハナのご両親とは友達だって聞いていたけど、池場谷くんのところともだなんて、世の中狭いものだね?」

「ホントにな……」

 つい先ほどの俺とまったく同じ感想を抱く天橋に、苦笑いしながら同意する。ホントどんだけだよ……



「そういえば、池場谷くんのお父さんって、どんな人なの?」

「あ、そうか……天橋は会ってないんだったっけ」

 そんな中、ふと天橋が発した言葉にふと気がつかされる。すっかりみんな親父とは顔見知りな気でいたが、彼女は親父が戻って来た日に途中で帰ったから顔を合わせていないのだ。



「うん、あの日わたしが帰った後に来られてたらしいね」

「そうだな……なんつーか、だいぶ自由で傍迷惑な人だよ。フラっと出て行ったと思ったらまたすぐ戻ってきたりするし、俺たちの事情も知ってたのに隠してたし……」

 問われた内容に、過去を振り替えながら答える……思えば親父が自由過ぎるために、俺やサトルは色々振り回された記憶が数多くあった……本当に迷惑かけられる側の身にもなって欲しいものである。



「なんていうか……随分と愉快な方なんだね」

「そういえば聞こえはいいんだけどな……あ、そうだ。写真があるんだけど、見るか?」

「あ、うん。見たい見たい!」

 若干反応に困った様子の天橋に、思い出したように提案する。まあ人と成りはなかなか伝わらなくても、写真を見せればとりあえず雰囲気は分かるだろう。


「ほら、このオッサンだよ」

 そうして携帯の写真フォルダから、親父が写った写真を一枚見せる。


「へ〜……って、え?」

「天橋?」

 ――すると、天橋が突如驚き始めたので、俺は思わず声をかける。


「この人が……池場谷くんのお父さん?」

「ああ、そうだけど?」

 なんだか明らかに天橋は動揺している……どうしたっていうんだ?



「そ、そうなんだ……あんまり似てないんだね?」

「ああ。そうかもな」

 問われた内容に、素直に応える。だってそれは……


「ごめん! わたし、そろそろ帰らなきゃ!」

 だが、続きを言おうとすると天橋は慌てて席を立ち、帰り支度を始める。


「え、ちょ、天橋!?」

「それじゃあ、またね!」

 戸惑う俺をよそに、天橋は一方的に別れを告げ、その場を去っていった。


「……何だったんだ? 一体」

 ――取り残された俺は、事態についていけぬまま独り首を傾げるしかなかった。

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