第39話

学校から逃げるように帰ってきた俺は、部屋の電気も点けずに、布団に包まって震えていた。

未だに体の震えが収まらないのは、ひとえに過去のトラウマがずっと脳裏にこびりついているからだ。


「これからどうしよう」


平日の昼間に家にいることが稀なため、特にやることも思いつかない。勉強しろよと思う人もいるかもしれないが、到底そんな気分ではない。


ひとまず、体の震えを落ち着かせるためにも、自作のアプリの不具合対応とかをすることにした。俺はアプリからの収入が唯一の財源だからだ。それに、メールボックスに報告がたまってきていたし、ちょうどいい機会だ。

現実逃避に近いが、時間を浪費していないだけでもマシだと自分の中で結論付けて、俺は作業に取り掛かった。


ただ、無心でバグ修正に奔走していたが、昼飯を作ろうとしたときに、現実に引き戻されてしまった。脳裏にこびりつくあの記憶。そして、霧島となぜか巻き込まれた今回の騒動。

これ以上、状態を悪化させることを止めるには、どうすればいいか。谷口ヤツはもう俺に対しての嫌がらせをやり尽くしていて、俺がいくら手を尽くしてもどうしようもできないだろう。俺がいくら揺さぶりをかけているといっても、所詮国会議員ならいくらでももみ消せる。


それなら、どうすればこの事態を終わらせることが出来るか。一番いいのは、俺と霧島が離れて、この噂を否定することだ。そうすれば、そういった誤解も生まれることもないだろうし、谷口ヤツも一番満足することだろう。

だが、そうすると、今度は霧島が危険にさらされることになる。谷口は俺が居ないと知るや、すぐに行動を起こしてくるはずだ。

とりあえず、霧島のお父さんに相談するのが一番だろう。霧島の新たな住処の用意を早くしてもらいたいし、谷口のことも伝えておいて損はないだろう。


ちなみに俺はお昼間に電話をするほど配慮のできない人間ではない。メールに、時間がある時に電話するように書いて送信した。




「浩司!」


ホームルームが終わってすぐに、私は学校を飛び出した。もちろん理由は、浩司が帰ってしまったことへの心配からだ。授業すら受けずに帰るなんて、絶対何か理由があるはずだから。


家のドアを開けて、開口一番に浩司の名前を叫んだ。そのまま駆け足でリビングに向かったのだが、なぜかリビングには電気が点いていなかった。

なら、浩司は2階にいるのかな?そう思って、私は2階の浩司の部屋に向かい、部屋の扉を開けた。


「浩司、って...」


浩司はイスに座って、作業をしていた。頭にはヘットセットがついていて、私の声は聞こえていなさそうだ。

私は不意にちょっかいをかけてみたくなり、そっと浩司の背後へ移動した。私が部屋に入ったことにも、浩司は全く気付いていない様子。


「わぁっ!」

「ひっ」


浩司の肩に手を置いて驚かせてみると、想像通り、浩司は驚いてくれた。浩司の驚く姿は、なんだか新鮮だ。普段はあんまり感情を表に出さないしなぁ。


「き、霧島か。どうした?」

「いや、どうしたって。めっちゃあったでしょ」


授業も受けないで、家に帰った人がその言い草はないと思う。私が今日の学校で、どれだけ心配したのか分かって...ないか。

というか、浩司のことを見てみると、身体全体が震えているように見える。でも、この部屋が寒いというわけでもないし、なんでだろう?


「浩司、大丈夫?その震え」

「あ、あぁ。大丈夫」

「その答え方は大丈夫じゃない人の答え方だから。ねぇ、何があったの?」


震えている浩司を見て、私は浩司の隣に座った。隣と言っても、浩司のベッドなのだけど。

私が問いかけてみても、浩司は口を開こうとしない。いつもなら隠し事をしない性格だからこそ、余計に気になってしまう。


浩司はずいぶんと悩んだ後、ようやく口を開いた。


「じゃあ、話すよ。俺の過去のトラウマ。別に霧島にだったら構わないし」



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主人公の過去突入します。多分2~3話で締めれると思います。

38話でいただいたコメントはきちんと読んでおります。一応、いい奴もいるということを後々出していきたいと思っていますので....

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