第38話

教室のドアを開けると、心なしかいつもよりも注目の度合いが増えていた。

というより、教室の男子の大半がこちらを訝しむような目で見てきた。過去の一件から多数の人から注目されるのは、あまり精神衛生上よろしくない。

俺は、逃げるように自分の席へと向かった。


「なぁ、倉田」


席に着くと、すぐさま星野がやってきた。星野もまた、険しい顔をしながら俺の方にやってきた。


「えっと、この空気はなんだ?すっごい居心地が悪いんだが」

「これなんだ?」


星野が俺の机の上にスマホを置いた。その画面には、写真が表示されていた。


「え...なに、これ」

「なにって、見たらわかるだろ。なぁ、これ本当か?」


その写真は、俺と霧島が並んで歩いている写真を正面から撮ったものだ。昨日、谷口から見せられたものと同じ写真でもある。

どうやら、これはSNSのグループ上に投稿されたものらしい。写真の次に送信されたチャットには、『1組の倉田と霧島がラブホに向かう途中』という内容が送られている。


「俺はこんなの身に覚えはない!」

「ならなんでこんな写真があるんだよ!」


俺はとっさにこの内容を否定しようとしたが、そこにクラスの他の男子が割り込んできた。割り込んできた男子の名は知らないが、かなり激昂している。


「もう一回貸してくれ」


俺は再び星野からスマホを借りる。そして、グループのチャットランを開けてみると、この写真とチャットの送信主は『Unknown』となっていた。つまり、これらを送信した後にアカウントを削除したということだ。

加えて、送信日時も午後4時ごろとなっている。この時刻は、まだ俺が教室に居た時間だ。


「クッソ」


昨日、谷口が言っていた『お前は遅すぎた』という発言はここから来ていたのだ。


「おい、どういうことか一から話してみろや」


クラスの男子から胸倉をつかまれる。だが、俺には話せることは一つもない。だって実際問題なにもしていないのだから。

だが、その事実を俺は声を大にして言うことが出来ない。なぜなら、俺の過去のトラウマが蘇ってくるからだ。


「おい、何も言えねぇのか?あ?」


俺は胸倉をつかまれ、息が苦しい状態のまま、ただ肩を震わせることしかできない。本当は今すぐにでもこの場から去りたいところだが、それも叶わない。


「おい」

「...ない」

「なんだって?声が小さいんだよ」

「俺はやってない!」


ついには俺の心が許容範囲を超えてしまった。自暴自棄になった俺は、胸倉を掴まれていた手を振りほどき、周りを囲んでいた男たちへ手を出してしまった。


「どけっ!」

「この野郎っ!」


男たちが次々と殴りかかってくるが、あいにくと俺も負けてはいられない。幸い進学校であるためか、そんなに屈強な奴が襲い掛かってくることは無かった。

1分もしないうちに、周りの制圧は終了した。まだ数人は男が残っているが、そいつらは静観をするようで、襲い掛かってくる雰囲気はない。


「...これで最後か」


俺は、その隙に自分のカバンを机の横から取った。俺のカバンには貴重品も入っているし、戦闘用具も入っている。

もちろん、カバンを取ったのには理由がある。まぁ単純にこの場に居たくない。もうすぐすると、担任もやってくるだろうし、こんなやつらと授業を受けれるわけがない。


「お、おい。どこに行くんだ、倉田」


星野が声をかけてきた。星野はさすがに暴力的な行為には参加しなかったようだが、それでも今となっては、あまり話したくはない。今でも、俺の内心は恐怖に染まっているのだから。


「帰るわ。じゃあな」


俺は素早く返事をして、教室を後にした。





「え?なんで私が倉田君と?」


私が教室に来ると、教室の中は騒然としていた。そして、普段はしゃべらないような子から話しかけられた。

そしてまた、話しかけられた内容が驚きで、「倉田と寝たの?」とド直球に聞かれた。もちろん私は言っている意味が分からなかった。倉田君は、むしろ私を助けてくれているのに。


「グループ見てないの?ほら、この写真」


クラスメートの子がスマホを見せてきた。そこには、私と倉田君が二人並んで歩いている姿が映っている。


「確かにこれは私と倉田君だね。でも、なんでこれで、私と倉田君がシたこととつながるの?」


そういうと、周りの子たちは黙り込んでしまった。逆に、なんでこれだけで信じ込んでしまったのか。


「とりあえず、倉田君は?」

「それが...」


周りの子は、私から目を逸らしながら、お互いのことを見合っている。それはつまり、何かがあったのだろう。


「実は、男子たちが倉田君の胸ぐらをつかんでね、それで乱闘騒ぎになっちゃったの」

「乱闘?教室で?」


だから、いつもはうるさい男子たちも静まっているのか。でも、倉田君の姿が見えない。


「そう。それで、倉田君は荷物を持って出ていっちゃって」

「これから授業でしょ?どういうこと?」


周りに聞いてみたが、みんな首をかしげるばかりだった。どうしたんだろう、浩司。

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