第36話

長いので分割します。なので話の切れ目が不自然ですが、ご了承ください。

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「で、何の話だ?」


今度は特別校舎のとある空教室まで連れてこられた。特別校舎というのは、図工室やPC教室などがある校舎だ。いずれも、副教科の授業などでたまに使われる程度で、放課後ともなれば一部の部活以外は使わない。

それ故に、人気も全くなく、連れてこられた俺は少し恐怖心が芽生え始めていた。


「キミたちのことを調べたのだけど、事実確認をしておきたくてね」


そういいながらスマホを操作する谷口。きっとスマホの中に俺の情報が記されているのであろう。


「どうやら、霧島さんは親族の方から追われているらしいね。それで、キミの家にいま居候していると」

「まぁ、確かにそうだな。それがあんたに何の関係がある?」

「いや、キミの負担を軽減してあげようと思ってね。君は知っていると思うけど、僕の父は議員でね。霧島さんの会社に"お願い"してあげたらさ、すべて解決するんだと思うんだよ」


谷口はウキウキするような感じで俺に提案を伝えてくる。しかし、なぜそれを俺に報告してくるのか。


「それなら勝手にやればいいじゃないか。なぜそれを俺に伝える」

「いや、あんなに仲睦まじく買い物をしていたんだから、キミにも伝えておかないといけないと思ってのことさ」

「そうか。別に霧島がどう言うかは俺は分からないけども、あんたが権力を使ったところで、根本的な原因は解決されないんじゃないか?」



今霧島を追いかけている彼は、南井グループの業績悪化に対して、霧島のお父さんの会社を吸収しようとしているからだ。

しかし、どうもそれだけが理由ではない気がする。というか前々から勘づいていた。なぜなら、単に吸収したいだけだったら、霧島を追いかける必要がない。それこそ、親会社の権力というものを使えば、簡単に成し遂げられるからだ。

そこで、俺はあることを吹っかけてみた。


「というか、霧島って誰かが欲している存在なんじゃないか?」

「何?」


すると、谷口の顔が少し歪んだ。これは、何かありそうだと俺の勘は告げる。


「例えば、霧島に関わったことがある奴が、俺のものにしたいと企んで、裏から手を回しているとかな?」


今考え付いたことを口にしただけだけど、なぜかコイツの表情が険しくなっている。


「...お前、なぜこのことを知っている」

「は?別にただの可能性を提示したまでなんだが。まさか、本当にそうなのか?」


これは驚いた。まさかコイツが黒幕だなんて、思いもよらなかったものだから。


「ちっ。お前、本当にめんどくせぇ奴だな。お前、消えたいか?」

「消えたい?俺を殺すってか。だが俺のことを消したら、霧島や俺の友人はどう思うだろうな。友人には、急な転校って押し通せるかもしれないが、霧島は俺の家に住んでいるんだぞ?」


俺も少し熱が入って、つい威圧的な言論が飛び出してしまった。すると谷口は突如、俺に殴りかかってきた。


「くっ...」


間一髪のところで俺は谷口の右ストレートをよけることが出来た。しかし、谷口は戦闘態勢だ。すぐにまた襲い掛かってくるだろう。

それにしても、なんで俺はこうも殴られないといけないのか。絶対何か悪いものにとりつかれている気がする。



「お前、暴力に走るとか本当にくだらない人間だな。親の教育方針間違っているんじゃないか?」


そう言いながら、俺はカバンの中からとある物を取り出そうとする。だが、その前に谷口がなんと、サバイバルナイフを手に握って襲い掛かってきた。時間を稼ごうとしたのだが、かえって谷口を挑発してしまったようだ。


「死ねぇぇぇ!」

「マジかよっ!」


俺は警棒を左手に持ち、谷口のナイフの方向を逸らすことに成功した。だが、完全に方向を変えることは出来ず、ナイフは左腕を少し掠めてしまった。

谷口は悔しそうな表情で、こちらを向きなおす。その手には、銀色に光るサバイバルナイフがまだ握られている。

俺は一瞬のスキを突き、伸縮式の警棒の先端部を持って、警棒を約50cmほどの長さに展開した。カチッという重たいロックの音が、教室内に響いた。


俺と谷口は向き合ったまま、一言もしゃべらずに、相手の出方を窺っている。ただ、剣道の試合とは違い、相手は刃物を持っている。しかも、半興奮状態の人間は、下手に手を付けられない。想像を絶するような力を出してくる時もあるし、何より『殺す』という意識があるのが問題だ。

一方の俺は、そんな覚悟を持ち合わせていない。だが逃げようとしても、教室の扉は相手側にあるのに加え、扉は閉まっているため、逃げようとしても、その隙にグサッといかれるだろう。

それに助けを呼ぶにしても、人気がない校舎なのだ。きっと谷口を刺激するだけだろう。


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