第35話

「で、霧島はどうする?」


俺は雨の中を急いで走ってきた俺は、家に着くと早々に、霧島にさっきの件を報告した。


「どうするって言われても、私、その人のこと知らないんだけど」

「え?知らないの」

「うん。もしかしたら、過去には話したことがあるのかもしれないけど、私は覚えてない」


となると、さっきのアイツは、ロクに話したこともない相手に執着している、ただのヤバイ奴だということか。それで、あの狂ったような言動を見ると、ますますその疑念が深くなる。


「とりあえず、霧島も身辺に気をつけてな。俺がついてあげれない時もあるから」

「というか、別に自分のことは自分で守るよ?そんな浩司に面倒掛けたくないし」

「といってもなぁ」


最近、俺らの身辺はきな臭くなってきている。思えば、霧島に出会ってから、俺の周りや俺自身もかなりの速さで変化している。

別に、霧島のことを悪く言うつもりはないけど、霧島を狙う連中が多すぎる。確かに、彼女は可愛いし、性格もよいのは十分承知だが、そこまでして霧島が欲しいのかと俺は思う。


「というか、それだったらなんで浩司に接触してきたの?」


今度は、霧島の方から質問してきた。


「確かにな。しかも、霧島の写真を盗撮するなんて、警察に届けた方がいいのか?」

「それも考えてみる?てかさ、その写真を広められたらまずくない?」

「あ・・・」


そのことをすっかり失念していた。今、件の写真を広められると、いよいよもって収集が付かなくなる。しかも、俺はあまり人に注目されるのは、精神的によくない。


「とりあえず、ご飯作るね」


霧島はそう言って、台所へと行ってしまった。よく考えてみれば、最近は霧島がご飯を作ってくれることが多くなった。俺がやろうとしても、「いいよ。私がやるから」などと言って、俺が台所に立つことはすっかり少なくなっている。


それはそうと、本当に厄介な状況になった。あの男は何をしでかすか分からないのに加えて、この状況を相談することも、ほぼ身近な友達が居ない俺にはできない。唯一ともいえる相談相手(星野)も、現状況において相談すべきなのか、俺にはわからない。




翌日。

ひとまず、俺は昨日の男が誰なのかを探るために、星野に情報を聞いてみた。詳細は少しぼやかしたことには、ちょっと後ろめたさはあったが。


「あー。そいつは昨日も話していた谷口だ。てか、お前谷口に絡まれたのか」

「まぁ。俺になんか気に食わないことがあったらしくてな」


気に食わないというより、思いっきり敵対視されていたんだが。しかも、親の仇みたいな感じで見られていた。


「お前、これから身辺気を付けた方が良いと思うわ。アイツの悪評は凄まじくてな。谷口には向かった奴は、全員この学校から消えてるって話だ。さすがに嘘だとは思いたいが、事実じゃないとは言い切れないからな」

「ありがとな。というか、本当に谷口ってやべぇ奴なのな」

「親の七光りを存分すぎるほどに発揮しやがってる。しかも、学校側としてもそれなりの献金を受けてるから、無闇に介入できないらしいな」

「金と権力、ねぇ」

「お前、マジで気を付けろよ」


いや、なんでこんな奴に絡まれないといけないのか。俺、何かしたか?と思う。例え、俺の前世が極悪非道の大罪人だったとしても、俺に振りかかってくるのは道理にかなっていないだろう。



「ん?どうしたの?そんなに顔を青ざめて」


いつの間にか隣の席にやってきた霧島が、俺の顔を見るや否や、心配そうに声をかけてきた。まぁ、無理もない。それほど、さっきの話のインパクトは大きかったのだ。


「何でもないよ。ただちょっと調子が悪いだけ」


本当は相談するべきなのかもしれない。だけど、俺は理由をごまかした。それが、霧島に心配をかけまいとしてからの行動なのか、それとも見栄を張りたいが故の行動だったのか、今の俺にはわからなかった。


俺は、今後の対応を午前中ずっと考えていた。幸い午前中の授業は、副教科と英語だったので、脳をフル活用していなくても、ほとんど支障はなかった。




「おい」


放課後。再び帰ろうとしたところに、またもや悪夢がやってきた。


「何か用か?」

「ちょっとキミと話がしたくてね」


谷口が昨日とほとんど同じ場所で接触を図ってきたのだ。相変わらず、素行の悪さを匂わせるような服装をしている。同じ制服を着ているようには到底思えない。


「話?ここじゃいけないのか?」

「あまり周りには聞かれたくない話なんだよね。もちろん僕はここでもいいけど、もしかしたらキミやキミの周りの人にも迷惑が掛かってしまうかもしれないからね」


ニタニタ笑っている谷口。だが、谷口が何を言うか分からない俺は、その言葉に従うほかなかった。

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