第33話

知っての通り、定期考査が終わったため、クラスの雰囲気はフワフワとしたものになっている。

高校2年生の夏までが遊べる期間で、それ以降は本格的な受験勉強がスタートし、そういったことも物理的に不可能になってくる。そのため、今年の夏は青春時代最後の夏なのであるからか、遊び尽くそうと息巻いている奴もいる。


そんな中、俺には青春の"せ"の文字もなかった気がする。まぁ数少ない友達とゲーム三昧することも青春の一つだとは思うが、まぁ構わない。

それにしても、一応自称進学校の生徒であるというのに、こんなに遊び惚けていいのかと思う。曲がりなりにも課題とかは出されているのだが、その課題をきちんと提出しようとする生徒は少ない。


「で、なに?」

「いや~、ちょっと時間がなくてさ」


目の前で気まずそうに目を逸らす星野。その額からは脂汗が噴き出ていた。


「俺にさんざんノートを見せるようにせびっといて、お前は課題すらまともにやってない。それで、テストで赤点ギリギリ。笑い事じゃないよなぁ?」

「返す言葉もございません」


午前中の授業の時に、英語のテストが返却されたのだが、休み時間の時、星野の様子があからさまにおかしかったので、俺は少し星野を問い詰めることにした。

すると、あらびっくり。星野の悲惨なテストがお目見えした。俺のノートで多少なりは勉強したのか、ノートにまとめてあった、要点のところは得点出来ていて、赤点は回避していたのだが。


「もう手を差し伸べられないぞ?まじめに努力できない奴には」

「すんません、改心しますので、助けてください」


俺は大きなため息をつく。一応友達であるコイツの、残念な状況に落胆する気持ちしかなかった。


「確かにお前のゲームの腕は確かだけどもさ、この学校に居る以上もう少し頑張ろうぜ。分からないとこは教えてあげれるからさ」

「はい...」


ゲームの腕を磨きたかったら、もっと違う進路もあっただろう。高校に行ってなくても、高卒認定は取れるわけだし。

しばらく星野と話をしていると、次第に星野のしょんぼりとした口調も、いつもの口調に戻ってきた。割と気持ちの切り替えの早い性格なのは、以前から知っていたけど。



「そういえばさ、お前の隣の席の霧島、男と街中を歩いていたんだって」


星野はそう言って、スマホの画面を見せてくる。画面には、制服姿の霧島と思わしき人物と、明らかに見たことがある服装の男が映っていた。


「けど、今まで一切そういう色恋沙汰を聞かなかったからな。なんか意外だわ」

「ふ、ふ~ん」


この画面に映っている男。ほぼほぼ間違いなく俺だ。幸い、俺たちのことを後ろから撮った写真であるため、この男が誰なのかわかっていないので、それ以上の盛り上がりは見せていない。


「でもさ~、霧島に男が居るとは思わなかったな~」

「霧島の兄弟じゃないのか?まさか彼氏だったら、制服で会わないだろ」


実際問題、霧島には一応兄弟が居る。仲は険悪ではあるが、嘘は言っていない。


「いやぁ~、霧島に兄弟が居るっていう話は聞いたことがないなぁ。まぁ全然あり得るけども」

「それにしても、この画像、どこから出たんだ?」

「確か、クラスのグループで回ってきたヤツだな。発信源は、えーっと、谷口だな」


本当に誰?普段他人と関わろうとしないからか、そいつが同じクラスかどうかも分からない。


「まぁ、谷口のことをお前は知らないか。まぁ端的に言えば、金持ちのボンボンのチャラい奴かな」

「なんか、絶対将来やらかしそうなタイプだな」


多分学生の頃は遊び惚けて、そのまま親の七光りで将来を約束されている。ああ、悲しきかな。これが世襲という既得権益なのだ。


「それは否定しねぇわ。なにせ、あまり良からぬ噂を耳にするもので」

「例えば?」

「女をとっかえひっかえしていたり、悪事を働くたびに、金と親の権力で握りつぶすっていう噂だ」


どこかで聞いたことがあるフレーズだ。どこにでも、人間として終わっているような奴は居るものだと、改めて思う。


「はぁ。いいご身分だねぇ」

「本当にそれな。しかも、コイツの父は政治家と来たものだ。確か衆議院議員だったはず。どうせ、親の後ろ盾で割のいい職業に就けるんだろうけど」

「もしくは、親の地盤を使って、議員になるとか。どちらにせよ、腐った世の中だな」


親の権力さえあれば、裏口入学だって出来るだろう。私立大学の推薦枠とかは、大学側が主観で決めるようなものだ。金持ちの息子を入学させることも容易いだろう。


「やっぱこの世の中ってクソだよな」


俺はボソッとつぶやいて、次の時間の授業の準備を始めた。

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