第32話
「うへぇ。死にそう」
「お前、英語は赤点回避しただろうな」
「分かんねぇ...」
4日間にわたる定期考査も今日で終わりだ。いや~、疲れた。
クラスの張りつめた緊張感も解けて、放課後の予定を練っている者も居る。
「霧島さん!どっか遊びに行きませんか!」
「カラオケとかどうかな」
実際に、俺の席のとなりでも霧島が男子から勧誘されていた。でも、その男子らがいささか熱心すぎるのではないかと思ったり。その熱気を目の当たりにして、霧島も引いてる気がする。
「お前もあいつらに加わるのか?」
そういえば、以前に星野もあいつらと一緒に遊んでいた。何故か俺と仲良くしてくれてはいるが、こいつも圧倒的な"陽"だ。
「いや?俺、ランク上げしないと」
「お前、この期に及んでゲームかよ。まぁいいけども」
やっぱり、星野は星野であった。コイツもなかなかブレない男だ。とはいっても、実はゲーム内の全国ランキングで500位とかに入っている男だ。
「じゃ、俺は帰るわ」
「俺も」
結局俺らは直帰という選択を取った。まぁ俺みたいな"陰"のものにはそれが一番だろう。
「ごめんね、今日はちょっと用事が」
「え~、何の用事?」
「ちょっと家のね」
「明日で良くね?今日、遊ぼうぜ」
いやでも耳に入ってくる会話を聞いていると、いくらなんでも必死過ぎないかと思う。しかも、その勧誘している奴らは、バスケ部のキャプテンとかのイケメンばかりだ。それで、霧島が女子の反感を買うのも理解できる。
でも、霧島は何も悪いことはしていないのに、理不尽には思わないのだろうか。
「帰ろうぜ..」
「せやな」
星野も見てて気分が悪くなってきたのか、帰ろうと促してくる。俺は、何故か関西弁で答えてしまった。
学校から家に帰りながら、俺は某L〇NEで霧島にメッセージを送った。霧島の身辺を守るためにも、心配しているというメッセージを送った。
数分後には、もう返事が返ってきていた。駅の近くに集合場所を指定され、待ち合わせの時間も送られてきた。ということは、迎えに来て欲しいということなんだろう。
迎えに行く時間までは、ずいぶんと時間があるので、俺は色々と所用をこなすことにした。具体的には家事全般・自家製アプリのバグ修正・定期考査の自己採点などと、やることは無数にあるのでね。
「えーっと、ここら辺でいいか」
待ち合わせ時間の10分前に集合場所へ到着した。時間前行動は社会人の常識である。まぁまだ高校生なのだが。
集合場所は駅の近くの広場だ。今の時間が帰宅ラッシュということもあり、人通りがすごく多い。果たして霧島は、この人ごみの中で俺の姿を見つけられるのかと周りの様子を見ていると、疑問に思ってくる。
とはいえ、特にやることもない俺は、広場の中央にある噴水の周りに腰かけ、適当にスマホで時間を潰すことにした。
「わっ!」
「うわっっ!あ~びっくりした」
ほぼ脳死状態でスマホを見ていると、突然後ろから大声を浴びせられた。声をかけてきた正体は、霧島だったのだが、突然のこと過ぎて、俺は街中で柄でもない大声を出してしまった。
「おまたせ。待った?」
「いや、あの」
からかうような表情で俺を見てくる霧島。だが、俺はこんな大衆の面前で、情けなくも大声を出してしまったことに怒りをあらわにする。
霧島も俺が怒っていることに気づいたのか、申し訳なさそうな表情で謝ってきた。
「ごめんね、そんなに怒るなんて思わなくて」
「もうこれっきりにしてくれよ。本当に心臓に悪い」
「いや、そんなに怒ると思わなくて」
かなりしょんぼりとしている霧島。それを見ていると、さすがにこちらも気が引けてくる。
「とりあえず、帰ろうぜ。晩ご飯何がいい?材料なかったらスーパー寄って行くし」
「じゃあ塩豚丼で」
「あー、豚肉ってあったっけ」
霧島も塩豚丼の魅力にハマってくれたようで何より。こう、人の趣味に自分の趣味が加わると、なんだかうれしいというか、達成感がある。
というか、霧島は当然ながら制服だ。一応校則的には寄り道禁止なんだが、そんなこともう形骸化していそうだ。ただ、俺は寄り道をする用事もこれまでなかったので、キチンと校則を守っている模範的な生徒といえるだろう。
「ねぇねぇ」
俺が無駄なことをぼんやり考えていると、隣を歩いていた霧島から声を掛けられる。
「定期考査できた?」
「ま、まぁ。それなりには」
「ちょっと、それなりって赤点取ってたら許さないよ?」
え?許さないって俺に何されるんですか。とっても怖いんですけども。
「まぁ冗談だけどね。後でテスト問題見ながら見直しね。手伝ってあげる」
「手伝ってもらえるのはうれしいです」
「浩司には恩がありすぎるからね。でも、なんで敬語なの?」
「いや、特に」
霧島は怪訝な顔でこっちを見てくる。いや、ほんとすんません。霧島はやっぱ天使だと思うのだけど、なんだか背後に鬼神が見える...ような気がする。
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次辺りから主人公の過去に触れていきたいと思います。
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