第31話

結局霧島は風呂に入った後、すぐに部屋に戻ってしまったようだ。彼女の気を害したと思った俺は、謝ろうとリビングで試験勉強をしていた。月曜からはいよいよ期末考査なので、最後の大詰めだ。

だがしかし。いつまでたっても霧島が来なかったので、霧島は明日の試験に備えて寝たものだと判断し、俺もとっとと寝ることにした。


振り返ってみると、今日は色々と事が起こりすぎた。自分も早く寝て、明日に備えることにしよう。



「...じ、起きて」


誰かの声が聞こえる。なんか前にもこんなシチュエーションがあった気がするけども。


「おきて~」


体がグワングワンと揺れる。霧島が起こしに来ているのか。このまま寝ても面白そうだけど、なんだか怒りそうなので、起きることにしよう。


「おはよ。どした?こんな朝から」

「いや、そろそろ起きる時間だと思ってね」


そう言われた俺は、枕の横のスマホを点ける。確かに、俺が普段起きる時間だ。


「それに、昨日さ。浩司に対してすねちゃったじゃん。本当なら、居候させてくれるだけでも十二分にありがたいことなのに。だから浩司に謝りたくって。ごめんね」

「それは俺も悪かったよ。やけくそになって、霧島の気持ちも考えずに、適当なこと言ってしまったし」


なんだか気まずい空気になる。互いに謝り合ったときの、話の切り出し方を教えて欲しい。


「と、とりあえず、着替えるから」

「そ、そうね。じゃあリビングで」


そそくさと退散する霧島。誰か俺に、この気まずい空気のために、空気清浄機を。




「やべぇ。赤点続出になりそう」

「いや、俺に言われても。どうせお前のことだから、昨日も遊んでたんだろ」

「全くもってその通りだな。そろそろヤバイかも」


霧島と一緒に家は出たものの、途中で別れた結果、俺が先に学校についてしまった。別れたところからは、割と人通りも多いところなのでまぁ大丈夫だろう。

で、先に着いた俺に話かけてきたのは、例のごとく星野だ。というか、このクラスの男子の中で、星野以外にサシでしゃべったことがない気がする。


「いや、今の時点で十分やべぇよ。俺ら、来年は受験だぞ?勉強する習慣付けていかないと」

「そうだよなぁ。てか、お前そんなキャラだっけお前」

「俺も決心したんだよ」


そう言いながら、ほとんど霧島のおかげという。でも、本当に受験を見据えていかないと駄目な時期になってきている。だから、霧島の指導は非常にありがたい。


「仕方がないから、英語のノートはあとで写真を送ってやるよ。感謝しろよ?」

「もちろんでございます。倉田様」


本当に何故かこいつは憎めない性格をしている。いや、ただ相性がいいだけなのかもしれないが。


「おはよー」


どうやら、霧島も来たようだ。霧島が来た途端、クラスの大半(男子中心)が霧島の方を見る。何人かは挨拶もしていた。

こうしてみると、改めて霧島の人気のすごさが実感できる。


「...おはよ」

「あ、あっおはよう」


家での気まずい空気は一緒に登校するときに、なんとかなったはものの、未だに少し引きずっている。それが、教室でも露骨に態度に表れてしまった。いつもならフレンドリーな感じの霧島も、今はなんだか挙動不審だ。


「え?お前、なんかあったの」


星野が不自然な挙動をする俺を見てそう尋ねてくる。いつもの感じとは大幅に違うので、無理もないだろう。

「いや?なにもないと思うけど」


真っ赤な嘘をすまし顔で答える俺。だが、普段の俺を見ている星野からしたら、嘘をついているのが分かっていそうだ。実際、俺の反応を見て、疑心暗鬼になっているように感じられた。


「まぁいいけどよ。とりあえず、勉強しようぜ。勉強しねえとやべぇわ」

「そうだな」


なんとかだましきれたような気がする。後で追及されないように祈るばかりだ。

すると、教壇に担任が上がってきた。おそらくだが、今日の分の試験用紙が入った封筒を抱えている。


「お前らも知ってるとは思うが、今日から期末考査だ。まぁ、いつも通り不正行為とかはしないでくれな。それじゃ、頑張ってくれ。えーっと、連絡事項はあったかな」


担任が気だるそうにホームルームを進める。俺が高校2年生になってから、この担任が元気にしている姿を見たごとがない気がする。そのせいか、黙々とノートで勉強している人や、暗記科目のクイズを周りの者同士で出し合っている人たちもいる。

というか、担任も注意しないのかとは思う。多分だか、注意するのが面倒くさいだけなのだろう。


「浩司、一応言っとくけど、ちゃんと勉強したこと思い出すんだよ?あと、焦りは禁物だよ」


隣の席の霧島が、しれっと俺に話かけてくる。この姿を見られるだけで、ひと悶着おきそうだが、幸い小声で話し合っているのと、周りがノートや参考書を必死に見ていること、俺たちの席が最後列ということもあり、バレてはいなさそうだ。


「まぁ精一杯がんばるよ」


俺はそう返事をして、机の上のノートに目を落とした。


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