第25話
「疲れた~」
結局朝の9時ぐらいからお昼まで、ぶっ通しで勉強してしまった。普段ならこんな集中力が続くことは無いのだが、霧島の教え方がうまいからなのか、苦ではなかった。
「よく頑張ったね。昼ご飯、私が何か作ろうか?」
「頼む...」
机から解放されると同時に、疲れがどっと押し寄せる。こんな調子では、高3の受験期の時に持たないだろうから、徐々に慣れていかないといけないのだが。
俺はテーブルの上にあったスマホを取り、通知欄を見る。
「あらー」
思わず声が出てしまうほど、Gmailの通知が来ていた。
霧島にはまだ伝えていないが、俺の現在の資金源はアプリの広告収入だ。もともと中学生の時に、プログラミングを勉強したくて制作したアプリを試しにストアに公開したところ、思ったよりダウンロードされたのだ。それがきっかけとなり、累計10個のアプリを制作した。もちろん最初は、すでにあるAPI(テンプレート的なもの)を流用したりして作っていたが、最近は一から制作したアプリもある。
だが、アプリ開発の大変さは制作ではない。ユーザーから寄せられる不具合を修正することだ。現在、市場には多数の種類のスマホがある。バージョンも多種多様で、特に新しいバージョンが公開された時は大変だったりする。
今届いているメールも大抵は不具合の報告だ。メール対応は結構面倒くさいが、それよりもアプリのレビュー欄に罵詈雑言を浴びせられて、評価が下がるよりかはましだ。
俺は二階からノートパソコンを取ってきて、コードをいじり始める。1週間前に新機能をリリースしたのだが、それに対する不具合の報告が多数寄せられていた。
「ここ書き換えるか」
俺は不具合の原因と思わしきコードを書き換える。そのまま、デバッグを行い正常に動作するか確かめる。修正したところがまたエラーを引き起こすとか笑えないからな。
「ご飯できたよ~」
霧島の声が聞こえる。どうやらご飯が出来たようだ。デバッグを終えて、不具合がないことを確認した俺は、Todoリストにチェックを入れてパソコンを閉じた。
「おっ、今日はうどんか」
「お腹すいてるでしょ?だから早く食べれるものがいいかなって」
ニコッと微笑む霧島。思わず見惚れてしまいそうなほど、美しい。しかも、気遣いまで完璧ときた。
「そうだな。じゃ、いただきます」
「召し上がれ~」
「ごちそうさまでした」
「後片付けしとくね」
霧島のご厚意に甘え、俺はソファーに寝ころぶ。食べた後にすぐ寝ると牛になるとよく言われるが、そんなことよりとにかく眠い。
ボーっとしていると、どんどん瞼が重くなってくる。朝早くから起きていたこともあり、眠気はピークに達していた。
「浩司、寝てていいよ」
いつの間にか、霧島が食器洗いを終わらせてソファーに座ってきた。霧島は、ソファーに寝ころんでいる俺を咎めることもせず、囁いてくる。
「じゃ、お言葉に甘えて...」
すると、俺の頭が持ち上げられる。そして、頭部に柔らかい何かを感じた。
「これはひざまくら?」
「これ初めてやるけど、なかなか恥ずかしいね」
そう言いながら、霧島は俺の頭をなでてくる。なんだかとてもいい匂いがする。上をちらっと見ると、それはそれは見事な双丘が見えた。
「何をじっと見てるの?」
「え、いや」
ニヤッと口を歪ませる霧島。なんだかまた負けた気分になる。俺はすかさず顔を横に背け、何事もなかったようにする。
「膝枕でゆっくり休んでね。おやすみ」
頭に柔らかい感触を感じながら、俺は目をつぶった。その後、俺はいつの間にか眠りについていた。
「かわいいなぁ。浩司は」
愛する人に膝枕をしながら、私は顔が緩んでしまう。自分のこの感情を抑えきれないことに対し、呆れてしまう。
「でも、この生活も長くは続かないのかな...」
そうつぶやきながら、私はスマホを見つめる。スマホの画面には、一通のメールが表示されていた。
もし浩司に言えば、浩司は親身になってくれるだろう。でも、この問題にこれ以上浩司を巻き込むのは避けたい。
そんなことをするぐらいなら、私が浩司から離れる方がよっぽどいい。こんな面倒な女に関わるより、浩司ならもっといい相手を見つけるだろう。
「浩司...」
どうしても、浩司に対する感情が溢れてくる。でも、浩司の幸せを願うならば、この気持ちは存在してはならないのだ。
結局私はどうすればいいの。誰か教えて...
私も色々と疲れていたのか、結局浩司を膝に乗せたまま、寝てしまうのだった。
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