第24話

日曜日。世間一般では休日として常識の一つとなっている。

しかしながら、そんな俺の優雅な日曜日が失われようとしていた。


「浩司~」


微睡みの中で俺を呼ぶ声が聞こえる。でもあったかいお布団に包まっていたい。今日は学校もないし、遅くまで寝ていたかったのだが...


―――カシャ


「いつまで寝てるの?もう朝だよ」

「...ねむい」

「はぁ。起きないんだったら、こっちにも手があるよ?」


何か、シャッター音が聞こえてきたが、そんなことはどうでもいい。あったかいお布団最高。休日なんだから、もうちょっと寝かせてくれ...


「起きないつもりなの?もう…」


すると、何ということか、霧島が寝ている俺のお腹の上に馬乗りになってきた。このことに俺は驚いてしまい、急に脳が覚める。

俺はまだ重たい瞼を必死に上げながら、状況の把握に努める。


「な、な、なにやってるんすか」

「浩司が起きないから悪いんだよ?ほら、さっさと起きて!」


そう言いながら、胸のあたりをポコポコ殴ってくる。なんだかとてもかわいい。

俺は、ついついいたずら心が働いてしまい、もう一回目を閉じた。霧島の反応が見たくなったのだ。


「あっ!まだ寝るの?むー」


霧島は起きない俺にずいぶんとお怒りのようだ。


「そっちがその気なら...フフフ」


すると、霧島は突然掛け布団を剥いで来た。


「起きて、浩司」

「ふぁっ!?」


霧島は耳元で俺が起きるようにささやく。未体験のことに俺の体はゾワっとする。


「起きないと、もっとイケないことしちゃうよ?」


ダメだ。この起こし方は男にとって毒としかなりえない。実際、俺の息子も起動を開始している。


「あの、起きますんで。勘弁してください」

「あら、そう?」


本当は名残惜しい気持ちもあるのだが、それよりも霧島の目の前でアレがいきり立つ方が大問題だ。彼女の性知識はどの程度なのかは知らないが、一緒に暮らしている以上、彼女に不快感を与えるのは避けなければならない。


「というか今何時」

「えーっと。確か8時ぐらいだよ」


8時か。以前なら絶対寝てた時間帯だな。


「どうせ私が起こさなかったら、お昼ぐらいまで寝てたんでしょ」

「うっ…」


図星なので反論できない。明日から定期考査だから、俺に勉強させるつもりで起こしたのだろう。


「朝ごはん作るか...」

「じゃあ私はその間に勉強の用意しとくね。中間は悪い点数取らせないよ?」


どうしてここまでしてくれるのかは分からないが、理数系の成績が低迷している俺にとっては、とてもありがたいことだ。


「浩司の寝顔ってかわいいよね」

「え?」


霧島は、ニヤニヤしながら携帯の画面を見せてきた。そこには、俺が布団に包まってすやすやと眠っている姿が映し出されている。


「いつの間に...」

「私が最初に部屋に入ってきた時だよ?てっきりドアを開けたら起きるもんだと思っていたけど、それはもう見事な眠り具合で」


ああ、恥ずかしい。


「悔しいと思うのなら、私より早起きするんだね」

「絶対に霧島の寝顔をカメラに収めてやる...」


俺の心情を読んだのではないかと思うほど、霧島は俺の思考と同じことをしゃべっていた。謎の対抗心が生まれてきた俺は、悔しさが膨れ上がってくる。


「でもチャンスって私と一緒に寝てるときぐらいかな。浩司は乙女の寝室には入らなそうだし」

「それは常識というか抵抗があるな」

「でしょ?」


霧島と一緒に寝るときって、俺すごい緊張するんですけど。しかも俺はなかなか寝付けないくせに、霧島はすぐに寝ちゃうっておかしくないですか。それで結局早起きするのは霧島なんだもの。


「まぁ私は勉強の用意をしてるから、着替えて降りてきなよ」


そう言って、霧島は俺の部屋から出ていった。だが、俺はとある事情でベッドを抜け出すのが遅くなった。朝からこの刺激はダメだな...




「ああ、朝のボーっとした浩司、カッコいい...」


部屋を出た霧島は、リビングのソファーで恍惚とした顔で転がっていた。


「あの可愛い寝顔も、焦った顔も全部いい...しかも、浩司って朝に弱いからイタズラしてもバレないし」


霧島の心中は、浩司に対する愛情で溢れんばかりになっていた。


「やっぱ私って浩司のことが好きなんだなぁ。けど、浩司にはそんな気がなさそうだし」


さっきとは一転して、少し不機嫌そうな顔になる霧島。実際問題、倉田は霧島に対して恋心を抱いていたりはしていなかった。


「これから浩司をどう落としていくか、考えないとね」


霧島は脳内にさまざまな妄想を繰り広げながら、勉強の用意を進めた。

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