第23話
「お前ら来週から定期考査だから、この休日勉強頑張れよ。じゃ、終わろうか」
担任が、気だるそうに終礼で連絡事項を伝える。クラスの大半は周りの席の奴らと雑談を交わしていたが、そんなことを気に留めることもなく、担任はとっととホームルームを切り上げた。
「じゃ、バイバイ~」
「バイバイ」
霧島が女子たちの見送りで手を振っている。1か月ぐらい前までだったら、彼女らと一緒に教室を出ていたのだが。
「…じゃ、俺が先に待ってるから」
「わかった」
周囲に聞こえない声で霧島と話した後、俺は教室を出て、下足に履き替える。そして、校門を出てすぐ曲がったところの電柱で、立ち止まった。
霧島の安全を守りたいということと、周囲の誤解を防ぐということを両立させようと頭をひねって出した答えは、人目に付かない場所で合流することだった。
「お待たせ」
「じゃあ帰ろうか」
霧島と並んで家までの道のりを歩く。ふと霧島の方を見ると、少しうつむいて歩いていた。霧島の内心は俺にはまだ落ち込んでいるようだ。今日の学校でも、明らかに無理をしているような表情の時が何度かあった。
こういったときは、何か元気になる話題を振るぐらいしかやれることがない。
「そういえば、霧島は好きな奴でもいるのか?」
「ふぇっ!?」
霧島の顔が一気に赤くなる。男同士ならともかく、女相手にこの質問はまずかったかもしれないが、落ち込んでいるテンションを切り替えさせることが出来るだろう。
「ちょ、ちょっと急に何言い出してるの!」
「いやー。こんなことしてて、好きな人います!とかだったら、今後の対応とか変えないとな^」
「変えるって何を?」
「いや、男女が同じ家に住んでるのは、色々とマズイだろ」
ちなみにだが、俺は若干鎌をかける意図も含めてこの話題を振った。昨日一緒に寝たときから、霧島の反応に違和感があった。ワンチャンあるのではないかと思ってしまったのである。
その後、霧島は何かぼそぼそとしゃべりだした。でも、声が小さすぎて何言っているのか全く分からねえよ。
「まぁ霧島ってクラスの男たちと絡んでいる姿、あまり見かけないな」
「だって、積極的に絡んでいったら、勘違いされるでしょ?そうしたら周りの女の子たちは、よく思わないと思うんだよね」
「それもそうだな。てかクラスの女子って、みんな男を品定めするような目を向けてくるよな」
あの女子らの目線は、実に不愉快だった。しかも、後日にこっそりと聞いてしまったのだが、典型的な陰キャとか言われていた。俺の事情も知らないで、勝手に批評されていたのを知って、ずいぶんと腹立たしく思ったものだ。
「しょうがないよ、そういう年頃だもの。でも、こ、浩司は優しいし、カッコいいと私は思うよ」
「霧島からだけでもそう思ってもらえるなら、ありがたいよ」
もう今となっては気にしていないが、こうやってフォローしてくれるのは実にありがたかった。
なお、霧島の心中は複雑なものになっていた。
「好きな人からこんなこと聞かれて、私はどう答えたらよかったの...」
残念ながら霧島の思いは誰にも伝わることは無かった。
今日は土曜日ということで、家には3時に着いた。
特にすることもなくて、暇を持て余すだけなのだが。
「...何してるの」
ソファーで制服から着替えようともせずに、ぐでーっとしていたら霧島が部屋着に着替えてリビングに降りてきた。
「いや、考査というものはなぜ存在しているのか疑問に思って」
そういうと、霧島の眼が一気に冷ややかになった。あー、これは怒ってるのかな。以前からなのだが、霧島はどうやら俺の頭をよくしたいらしい。
「家で勉強するって言ってたよね。私と一緒に勉強するっていう約束反故にする気?」
「え?霧島と勉強するっていう約束したっけ」
「つべこべ言わないの。早く着替えてきて」
「いやー。別にご自分のご学業にご専念されていただいて構わないのですが」
「...」
無言で扉の方に指をさす霧島。その表情はとても硬く、冗談が通じていないようだった。
有無を言わさない感じで、ソファーを追い出される俺。なんだか尻に敷かれている気がしてたまらないのは、気のせいに過ぎないのだろうか。
俺は自分の将来に一抹の不安を覚えながら、勉強の準備を始めたのだった。
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