第21話
「その、私怖くって。今日は一緒に居て欲しい」
上目遣いでお願いしてくる霧島を見て、俺の脳内は二極化していた。「襲われた霧島に安心してもらうためにも一緒に寝ていいじゃないか」という考えと、「年頃の男女が一緒に寝るというのは倫理的にまずいのでは?」という二つの思想がせめぎ合っていた。
「ねぇ。やっぱ、だめ?」
「うっ...いいよ」
そんな瞳で見つめてきたら、男なら誰だって断れない。ほぼ反射的にOKを出してしまったが、今夜は一体どうなるのだろうか。
そう思いながら、地理の勉強をしていた。もちろんのことながら、集中などできるわけなかったのだが。
「...寝るか」
「うん」
リビングで勉強していた俺らだったが、夜遅くまで起きている理由もなかったので、いつもより早いが、そろそろ寝ることにした。
いつもなら先に寝ている霧島も、今日ばかりは一緒に起きていた。というのも、
「一人で居るのが怖いの...一緒に居て?」
などと言ってきて、頑なに寝室(なお俺の部屋)に行こうとしなかった。なので、霧島のためにも早く寝ようという決断を下した。明日も学校あるしね。
「じゃあ布団取ってくるわ」
「え?」
早速、俺の部屋の床に敷く用のマットレスと掛け布団を取ってこようとしたのだが、霧島から怪訝な顔をされてしまう。なんで?
「え、どうした?」
「いや、同じ布団で寝て欲しいの」
どうやら霧島のご所望は添い寝らしい。それを聞いた瞬間、俺の脳内は「???」で埋め尽くされた。
「お願い。一人じゃ怖いの」
「分かった。分かったから縋り付くのはやめてくれ」
霧島は俺を行かせまいと、俺の体に抱きついてきた。あの、色々なものが当たっているので離れて欲しいのだが。
「まぁその、俺は一緒に寝ることに抵抗はないが、霧島はあるんじゃないか?」
「ない」
即答したぞこの人。大丈夫なんですかね、この危機意識。
「あぁ、そう。じゃあ部屋行くか」
「うん!」
満面の笑みでそう答える霧島。さて、今夜俺は安眠できるのか、心配になってきた。
結局、霧島と一緒のベッドで寝ることになった。俺の部屋のベッドは、壁にくっ付いているのだが、俺が寝るのはベッドにくっ付いている壁側で、霧島がドア側になった。
「電気消すぞ」
暗闇の中で横になった俺は、枕元に置いてあるリモコンを操作し、部屋の電気を消す。それにしても、いい香りがすごくして、何かいけない気分になりそうになる。が、そんな気をおこしてしまうわけには行かない。霧島がこうやって信頼してくれているのだから。
「今日はありがとね。浩司」
「え?ど、どうした?」
霧島が突然、横になっている俺の背中に抱きついてきた。それだけではなく、俺のことを下の名前で呼んできた。それによって、俺は一気に心臓の鼓動は早くなる。美少女が抱きついてくるだけでも、相当緊張するというのに、名前も呼んでくるのは、心臓に負担がかかる。うれしいことには違いないのだが。
「はじめはね、私の家のことはずっと心に秘めておくつもりだったの。私ってほら、教室では明るく振る舞っていたでしょう?」
「そうだな」
「だから、教室のみんなにもこんなことを伝えるわけにはいかなかったの。でも、私、こんなに深刻な状況になるとは思ってなくてね」
そりゃ...な。誰だって、背後から刺されたり、帰り道で急に襲われるなんて思わないだろう。
「だからこそ、浩司には感謝してるの。それこそ、浩司は私のヒーローなんだよ?私のことを守ってくれて、匿ってくれて。私に居場所をくれる唯一の人」
霧島は、ぽつぽつと話しかけてくる。
「だからさ、私を見捨てないでね。私の今の居場所は、浩司だけ。もし浩司に捨てられちゃったら、身も心もどうなるか分からないよ」
そう言って、霧島はさらに抱きしめる力を強くしてきた。俺は、急に霧島の頭を撫でたい衝動にかられた。
多分だが、霧島の話が昔の妹の姿と若干重なったからだろう。俺の妹も、昔にメンタルをやられた時期があり、その時に添い寝をして励ましたことを覚えている。ただ、妹と寝るのと、霧島と寝るのでは、大分心理的に違うのだが。
「気にすんな。霧島のことを見捨てたりはしないから」
霧島の頭をなでながら、俺は半分寝ている頭でそう答える。
「ありがとう、浩司。この恩、必ず返すからね」
「ああ。そうしてく、れ」
俺の意識はここで深い闇の中へと沈んでいった。
「大好きだよ。浩司」
そうつぶやいて、霧島も眠りへとついた。もちろん、彼の胸の中で。
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皆様、ご意見ご感想誠にありがとうございます。
すべてのコメントに目を通させていただいておりますが、筆者側の諸事情により、返信する時間が取れない状況にございます。
ご意見の中で、法律関係のご指摘を何度かいただいておりますが、筆者は法律関係に疎いこともあり、違和感を感じられる方もいらっしゃるかとは思いますが、大目に見ていただけると幸いです。
また、投稿ペースも前述の通り不安定になっておりますが、必ず週一話は更新させていただきますので、気長にお待ちいただけると幸いです。
そして、★が1000を突破しました。皆様、読んでいただきありがとうございます。
さらによりよい小説を書いていくつもりなので、どうぞよろしくお願いいたします。
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