第19話

一部表現を追加しました。(2020/09/09)

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「じゃあね~バイバイ~」


隣の席の霧島が、周りの女子たちに手を振りながら席を立つ。

今日の授業もすべて終了し、教室の中も閑散となりつつあった。


「なぁ、倉田ぁ~。課題の範囲の英語教えてくれ」

「やだよ。めんどくさい」


星野がゴマをするかの如く、手をニギニギさせながら俺の席に来た。しかしながら、俺は今日とっとと帰りたい。なぜなら、家の掃除をしないといけないからだ。掃除は少なくとも三日に一回はしないと、生理的に俺の気が持たない。


「いや、そこをなんとか。お願いします!」

「はぁ~~~~。ほら、どこだ。見せてみろ?」


どんよりとした顔をしていた星野が、一瞬にして明るくなった。コイツ、人に取り入ることはうまいんだよな。


「あ、それで、なんでこの文が…」



結局、下校が4時半になってしまった。授業が終わるのが4時ぐらいなので、30分近く星野の質問に答えていたことになる。星野め、今度何か奢らせよう。


早く家に帰りたかった俺は、英語の質問が終わり次第、一目散に星野と別れ、家へ向かった。星野は数学も教えてくれと言っていたが、残念ながら俺にも分からないため、無理矢理抜け出してきたのだが。


星野へ理不尽な要求を心の中でぶつけつつ、家へと向かっていた。のだが、


「な、なに!やめて!」

「こいっつってんだろ!お前に自由なんかないんだよ!」


俺の家の近くで、見るからにガラの悪そうな男が恫喝をしていた。それだけなら別に無視するだけなのだが、俺の聞き覚えのある声は、俺の関心が向くことになった。

これは...霧島の声だ。さすがに毎日聞いていたら分かる。霧島が何者かに襲われているとなれば、助けに行かないわけがない。

俺は相手に気付かれないよう、静かに声の方へと向かった。


「何をしているのですか?」

「あぁ?」


おお怖い。俺声をかけただけなのに。けど、ここで引き下がるわけにもいかない。


「いや、彼女嫌がっているじゃないですか。しかも、同じ学校の人が絡まれているのを見捨てたりは出来ませんよ」

「っるっせぇ!なんだ?痛い目見せてやろうか?」

「なんですか?警察呼びますか?」


呆れたように俺が言うと、背を向けていた男がこっちを向いてきた。


「お前は...」


男の顔を見ると、以前俺にナイフで刺しかかってきた男だった。その顔を見るや否や、俺は怒りが沸き上がってきた。


「なんでお前がここにいるんだ。お前は捕まったはずだったろ」


俺の問いには一切答えずに、男は突然右ストレートを放ってきた。


「うぉっ」


俺は男の右ストレートを躱して、手に持っていた傘で中段の構えをとる。俺の過去のことは極力思い出したくは無かったが、仕方がない。


「おらぁ!」

「ハッ!」


男がまた殴り掛かってこようとしたので、俺は男の喉に向けて突きを放つ。だが防具を付けていない相手への突きで、相手を殺してしまわないかと躊躇してしまった。


「グッ!」


俺の放った突きは、首元ではなく胸辺りにに命中したが、それでも男にとっては大ダメージだ。むしろそっちの方が良かったのかもしれない。男はそのまま道路に倒れこんだ。


「霧島、先に家に入れ!」


そう叫ぶと、霧島は急いで家の玄関を開けて家の中に入っていった。それを確認した俺は、男の元へ向かい、やりすぎていないか確認する。


「おい、何の目的だ?」

「...っるっせえ」

「もう二度と俺たちの周りに近寄るな。次は本気で突くぞ」


俺は、思い出したくない昔の記憶を抑えつつ、倒れている男の意識があることを確認して、家の中へと入った。



「霧島、大丈夫か」


俺は家に入ると、真っ先に霧島に怪我とかの確認する。霧島の身長より10~20cmほど身長の高い大の大人に詰め寄られていたのだから、心配だった。


「う、うん大丈夫。助けてくれてありがとう」

「いいよ。無事で何よりだ」


大丈夫と言いながら、霧島の肩は震えていた。そりゃあ怖かっただろう。


「で、何があった。言えそうなら言ってくれ」


一か月ちょっとの期間で、二度も身の危険に晒されている。しかも、同一犯だ。ただごとじゃ済まない。そして、なぜこんなに粘着するのか。そして、霧島との関係も分からない。

一応スマホを取ってくる。警察に通報することも考えないといけない。本来ならば真っ先に110番に通報すべきなのだろうが、俺たちが今置かれている環境を鑑みると、そう易々と通報はしたくない。


「流石に黙ってはいられないよね。分かった。実はね...」


霧島の口から告げられた衝撃の事実に、俺は驚愕することになった。

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