第18話
ゴールデンウィーク明け。クラスの喧騒を避けるように、俺はいつも通り静かに席についた。
「おはよ~」
「ああ、おはよ」
ただいつもと違う点は、隣の席の美少女が挨拶してくることだ。今日は珍しく、女子の皆さんと談笑を楽しんでいるのではなく、自分の席で黙々と勉強していた。
「うい~っす」
自分の席で授業の準備をしていると、今度は星野がやってきた。
「おはよ。すまなかったな、ドタキャンしちゃって」
「構わないさ。急用だったんだろ?まぁその代わり、いつかご馳走してくれよ」
「考えとく。それにしても、課題多かったな」
そう言うと、星野の顔が青くなる。あ、コイツ。課題終わりきってないな。
「そ、そうだったな。で?お前は終わったの?」
「ああ、当然だ」
「なに!?あのお前が?」
「おい」
実を言うと霧島のおかげなのだが、あえて伏せておく。いろいろとバレたらまずいしね。
「あの~、課題見せてもらえませんでしょうか」
「ん?「あのお前が」?」
「すみませんでしたぁ!」
「仕方がないな。俺の恩情に感謝しろ」
「あざす!」
俺はカバンの中からいくらかノートを出し、星野に手渡す。星野は逃げるように自分の席に駆けていった。
そのあとに、霧島の方をチラリと見ると、すっごくニヤニヤしていた。いや、その、ありがとうございます。その感謝の念を伝えるべく、合掌すると、左手でOKサインを出してくれた。いやはや、感謝。
放課後。
いつも通り居残りをして、授業内容とかの分からないところの質問に行く。霧島が居るおかげで質問量がだいぶ減ったが、それでもすべての問題が出来るわけでもない。
「ありがとうございました」
「おう、関数は受験でも頻出だからな。必ずマスターしておけよ」
挨拶をしっかりとして、職員室を後にする。腕時計を見てみると、もう4時半だ。今日はこの辺でもう切り上げよう。
人がまばらな教室に戻った俺は、鞄に教材を詰めて、さっさと退散することにした。
「ん?」
革靴に履き替えて、玄関を出ると、見覚えのある影が校門の横に立っていた。
「あ!」
何故だか手を振っている。周りには人がほとんどいないので、多分俺に向けて手を振っているのだろう。
「倉田君、遅いよ~」
「いや、てっきり先帰っているかと」
「あ、それね、鍵がないからさ...」
あ、すっかり失念していた。確かに、合い鍵を渡さないと家に入れない。霧島の帰る家は俺の家である以上、このことも考えておかないとな。
「ごめんな。待たせてしまって」
「いいよ。一緒に帰ろう?」
霧島と共に通学路を歩く。すると、突如霧島が爆弾発言をした。
「私たち、こうやって帰ってるの、カップルみたいだね?」
「え?あのそれは」
「...あ」
霧島の顔が赤く染まっていき、まるで熟れたリンゴみたいになった。自爆するなんて、意外とおちゃめなところもあるのだろうか。
「...でも、倉田君のことは好きなんだけどね」
ごにょごにょと何かをつぶやいていたが、声が小さすぎて何を言っているのか聞き取れない。
「ん?何か言った?」
「いいや?何でもないよ。さっきのはナシね!」
未だに顔を赤くしながら念押ししてきた。いや別にカップルだとか思ってないから。安心して。
◆ ◆ ◆
「で、下校の時の話なんだが」
夕食を食べ終わった後、ソファーでスマホを眺めながらこの話を切り出した。
「え、カップルって言ったのは悪かったよ~」
「いやそっちじゃなくて」
何故かそういうと、霧島の顔が若干むくれた。何かまずいことでも言ったのだろうか。
「それで、合鍵あげるよ。多分霧島ならヤバいこともしないだろうし:
「いや、そんなの悪いよ。大丈夫だよ。私も居残りするし」
「構わないよ。霧島のこと信用してるし」
ソファーを立った俺は、貴重品を入れている棚から合鍵を取り出す。そしてソファーに戻って、霧島に差し出す。
「いや、私大丈夫だからさ、ね?そんなの預かれないよ」
グダグダと拒んでくるので、説得は無理だと俺は判断し、霧島の手を握る。
「え!?な、何?」
「持っておけ。な」
俺は霧島の手に強制的に合い鍵を握らせた。霧島はまたもや顔を赤らめる。
結局のところ、渋々ではあったが合い鍵を持ってくれることになった。女の子を外で待たせるとか男としての恥だしな。
「そんなに強引にされちゃったら、私、拒めないよ…」
霧島のつぶやきは倉田に届くことは無かった。
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