第17話

「いまから夜ご飯作るね」

「じゃあ国語の宿題して待ってるから、手伝ってほしかったら言ってね」


午前中の話の通り、今日の晩御飯は霧島が作ることとなった。ということで、俺は課題を進めることにした。

ちなみに俺が作った昼飯だが、霧島のお口にあったようだ。さすがに人生RTAにつながるような、化学調味料と油マシマシ炒飯にはしなかったが。女の子だしね。



今宿題をやっているのだが、どうしてもキッチンの方を見てしまう。美少女にエプロンは非常に魅惑的だ。しかも、そのエプロン俺のっていう。

特に俺はエプロンというものにフェチを見出していなかったが、これは萌えとして描かれる理由もわかる気がする。


「ねぇ~、って何こっち見つめてるの?宿題終わった?」

「あっいや。何でもない」


あぶない。ここで「霧島の姿が可愛くて見惚れていた」とか言ったら即死だな。心の内に必ず留めてなくては。


「?まぁいいけど。そうだ、フライパンってどこにしまってるの?」

「フライパンは、コンロの下の引き出しに入ってるよ。一番下ね」

「あっほんとだ。お借りするね」


うーん。なんという眼福。こんなことを考えている時点で、自分もつくづく男だなと実感する。とりあえず、課題を進めることにする。




文章題に取り掛かり、記述問題の構成を考えていたところで、キッチンの方からなにやらいい匂いがしてきた。そろそろ夜ご飯の時間と思った俺は、とっとと100文字の記述を組み立てる。記述問題とかが一番途中で区切られると困る問題だ。思考が崩れるからね。


「倉田君、ご飯できたよ~」

「は~い。すぐ行く」


ちょうど記述問題も書き終わり、最後の選択問題が残ってはいるが、それよりも冷めないうちに霧島の晩ご飯を食べたいのでテーブルに向かうことにした。


「うまそう...」


テーブルの上の品々を見て、思わず口に出てしまった。しかし、それほど美味しそうな見た目と匂いをしている。


「ささ、食べて食べて」

「いただきます」


まずは、メインディッシュであるハンバーグから頂くことにする。


「おいしい?」

「…おいしいなこれ。多分俺が作るよりずっとおいしい」

「ならよかった」


お世辞でもなんでもなく、本当においしい。以前俺の作ったハンバーグと比べ、肉汁も流れていないし、形もきれいだ。


「じゃ、私も食べようかな」

「スープもおいしいなぁ」

「ねぇねぇ。倉田君ってさ、普段汁物って付ける派?」

「いやー。気分だけど、面倒くさくていいやってなっちゃう日が多いかな」


食事中は料理の話で盛り上がってしまった。割と参考になることもあったので、今後に生かしていきたい。




「そういえば、明日から学校だな」

「ゴールデンウィークももう終わりかぁ。結局、倉田君にお世話になっちゃったね」

「まぁ構わないよ。でさ、家を出る時間をずらさないか?」

「なんで?別に一緒に行けばいいじゃん」


あのねぇ。そんなことしていたら、噂が立っちゃうんですよ。あなた、クラスでの立場ご存知ですかね。


「あの、俺と霧島が一緒の家に住んでいるってことがバレたら色々とね?」

「あっ確かにそうだね。分かった。じゃあ私が先に学校に行くね?」

「いや、女の子はいろいろとあるだろうし、俺が先に行くよ」


この後、何回も譲り合いが行われた後、結局霧島が先に出ることになった。「私が居候している立場なのに、申し訳ないよ」と何度も言われて、俺が折れることになった。妙なところで霧島は頑固だった。




「あ、買い出しの帰りに怯えていたけど、大丈夫か?」


俺は、買い出しの時に霧島が俺に突然抱きついてきたのを不意に思い出した。あの時の霧島の表情は、本当に恐怖の表情だったと思う。


「え、あ、いや、大丈夫だよ?」

「いや明らかに動揺してるだろ。何か悩んでいるなら、聞いてやれるぞ?手助けできるかどうかは分からないけど」

「本当に大丈夫だから。うん」


頑なに口を開こうとしない霧島。言いたくない理由があるのだろう。言いたくないのなら、俺からその理由に踏み込むことは無い。プライバシーにも関わるし。


「まぁ、何か困ったら言えよ。一人で絶対に抱え込むな。分かったな?」

「うん。分かったよ」




「...倉田君が私にどれだけ優しくしてると思ってるの...」


霧島は、そう心の中でつぶやいた。

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