第10話

「んで、結局どうするの?」


夕食を食べ終わった俺らは、ソファーに座ってテレビを眺めていた。


「...その、良ければなんだけど、泊めてもらえない、かな?」


う~ん。やっぱりそうなるよな。もう夜の8時だし。別に断る理由もないが、霧島の家庭の状況を知らない今、むやみに霧島の内面に踏み込まないようにしないとな。

そういえば、倫理的にどうなのか。親もいない家で男女二人きりというのは。でもそれなら家に招き入れている時点でアウトか。


「泊まっていくのは別に構わないけど。本当にそれでいいのか?」

「...うん。後はもう野宿ぐらいしかないかな」


やっぱこんなとっさの事態に頼れそうな友達はいないのか。でも、一応霧島もクラスの中では人気者の部類に入る人物だ。ある程度の親睦を深めていそうな友達もいてもおかしくはないけど。


霧島を見ていると、美少女という存在というものも考え物だろう。男子からは下心のこもった目線で見られ、女子からは嫉妬の目線で見られる。

特に、女子とかの嫌がらせは陰湿であるとか、本人も言い出しづらいと聞いたことがある。別に容姿からくる劣等感なんて関係のないことなのに。そういうことをする奴は、どうせ付き合った奴にその秘めている内面がバレて呆れられるのがオチだろう。性格がいい奴はそんな下劣な行為には走らずに、もっと己を高めると思うしな。


そしてこれは憶測でしかないが、多分霧島はその視線に耐えてきたのだろう。もっとも、俺も男子のうちの一人ではあり、俺の思っていることと霧島の現実は違うのかもしれないが。



「まぁ、泊まっていっていいけど。どこで寝るかだな」

「もうソファーとかで良いよ?」

「いやいや。お客さんをソファーで寝かすわけにはね。一応、ベッドは俺の部屋と父さんの寝室があるんだけど、どっちがいい?」

「え、ええ?」


なんだか霧島がゴニョゴニョ言っている。かなり小声なので何を言ってるのかは分からないのだが。


「...倉田君のお部屋で」

「ごめん、何?」

「倉田君の部屋で!」


顔を赤らめながら、霧島は答えた。なんでそんな恥ずかしがってるんですかね...

なら、俺は父さんの寝室で寝よう。寝室はダブルベッドだけど、父さんはあまり使ってなかったな。あの人仕事に精を出し過ぎなんだよ。

そういえば、俺の部屋に見せちゃいけないものってないよな...


「分かった」


霧島が俺のベッドで寝るなら、シーツとかも交換しないとな。

そういえば、お風呂沸かすの忘れてた。


「んじゃ、お風呂沸かしてくるからちょっと待っててな」


そう言って、俺はリビングから出た。



◆ ◆ ◆



お風呂を掃除して給湯器のスイッチを入れた後、俺は自室に来ていた。

理由は言わずもがな。一応部屋のチェックと、ベッドのシーツを変えに来た。ちなみに、俺はベッド下を収納として活用している。

...いかがわしいものを収納しているわけではない。断じて。


一通り、見られてまずいものがないことを確認した俺は、ベッドのシーツの交換をしていく。シーツは変えたばかりなのだが、女子を寝かすのに変えないわけにはいかない。

今更ながら思ったのだが、霧島は俺のベッドでなぜ寝ることにしたのか。別に父さんの寝室でも同じだろうに。本当に女の子はよくわからない。



替えたシーツを洗濯カゴの中に放り込んだ後、俺はリビングに戻った。


「スヤァ…」


霧島がソファーでクッションを抱きかかえながら眠っていた。多分、今日は疲れたのだろう。それに、いろいろと悩みとかもあるだろうしな。だが、30分足らずで見知らぬ人の家で寝れるものなのか...


「おーい。霧島」

「ん、んん。…スー」


だめだこりゃ。熟睡してやがる。

だが、こうしてみると可愛いなぁと思う。こんな子が自分の家が嫌いになるってどんな家庭環境なんだ。霧島の親は自分の娘に対して、どんなに冷たく接してきたのだろう。そして、霧島は親に対してどんな思いで居たのだろう。霧島のお母さんは他界しているようだが、それで霧島のお父さんは自分の娘にこんな仕打ちをしているのだろうか。もしこの推測が正しいなら、相当のクズであると思う。


ダメだダメだ。だんだん腹が立ってきた。このことは霧島の家庭の問題だ。そっとしておこう。俺が下手に口出ししてはならない。

俺は、無理に起こさない方が良いと思ったのと、単純に気分転換のために家事を済ませることにした。ついでにリビングの電気も消しておこう。




「ん、ふわぁぁ。...あれ?私寝ちゃってた?」

「お、起きたか」


食器洗いを済ませ、食器棚にお茶碗とかをしまっていると、霧島がお目覚めになったようだ。大体1時間くらい寝てたのか。


「あの、お風呂なんだが。どっちが先に入る?」

「んにゃ?お風呂?」


霧島はまだ若干寝ぼけているようだ。朝が弱いタイプなんだろう。知らんけど。


「んー。一緒に入る?」

「ファッ!?」


素でこんな声を出してしまった気がする。なーに言ってるんですかねこの人。寝ぼけているにもほどがあると思うのだが。


「あ、あの霧島さーん?シャキッとしてくれ」


そう言って、リビングの電気を入れた。霧島はまぶしそうに眼をこする。

少しすると、自分の発言を思い出したのか、急に顔を赤らめて目を逸らしてくる。


「あの、倉田君?その...」

「いや、本気にするわけないだろ。んで、結局どっちから入る?俺は別にどっちでもいいが」

「なら先入らせてもらうね!」

「ああ。頭冷やしてこい」


霧島は顔を真っ赤にしながら、リビングから出ていった。これは割と恥ずかしい。俺でも穴があったら入りたくなる。

...でもあいつ、風呂場の場所分かるのか?


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