3.罪の報い
「見つけたぞ!」
その時、男の人が始めに聞いた声は、そんなものでした。
数々の場所で罪を犯し、最終的にこの街にたどり着いた男の人には、怒鳴った人間がどういう人物なのか一瞬でわかりました。男の人は声の出所に視線を向ける前に、辺りを見ます。そこは家が密集して立ち並び、狭い四つ角になっていました。横から人影が飛び出してきます。
少女は体力がなく、かなり後方にいました。十字路より奥側をゆっくり歩いてきます。男の人だけを見ている追っ手は、このままいけば少女に気づかないでしょう。
「その短足で追いつけるならついてこい!」
男の人は長い舌を出し、追っ手を挑発しました。
追っ手は確かに小柄でした。顔は黒いマスクで覆い、そこら辺で拾えそうなぼろきれをまとっています。そんな貧相な体に不釣り合いな大きな曲刀を持っています。
「なんだと!」
男の人が走り出すと、まんまと挑発にのった追っ手が勢いよく追いかけます。
無論この追っ手は警察ではありません。この街の法は死んでいます。普段からたくさんの犯罪を行っているのに、男の人がちっとも捕まらないのは、それが理由です。クローン作成が許容されているのも、それが大きな理由でしょう。そんな法が死んだ街では、人が殺されても警察は満足に捜査もしてくれません。金を積めば、話は別です。しかし大きな事件になるほど、最終的に搾り取られる額が大きくなります。そのため貴族たちは、殺人の捜査を依頼する場合、そこらにいるごろつきを雇うことがほとんどでした。
この追っ手もその類でしょう。男の人が直近で殺人を犯したのは、少女のオリジナルの時だったので、それが原因だと思われます。
男の人は次に見えた角を曲がりました。全力疾走すれば、少女は確実に追ってこれません。ですが追っ手は追ってきます。男の人は口角を上げ、路地から飛び出しました。
途端に喧騒に包まれます。夕暮れ時の今、市場は夕飯の買い出しに来た人間でごった返しています。男の人は人々の間に紛れ、歩き出しました。密かに辺りを探っても、追っ手がすぐ近くに来ている様子はありません。男の人はそのまま日が暮れるまで身を隠し続けました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます