第4話 寄生の王

「どうしようもねぇ…誰も居ないのか?」

目が覚めて暫く経ったので部屋の散策を考えたが、身動きはやはり取れなかった。(都合良く腕が生えてくれば良い!)と思い腕に力を入れるが、血液が少々弾けるくらいだった。

「その望み…叶えてやろうか?」

脳内で声が響いた。

「なんだ?さっきの神か?」

上を動揺しながら見る。

「神?何かわかんねぇけど取り敢えず下だ下。」

見下ろすと小さな掌サイズ(今はないが)の赤いスライムがいた。因みに俺の状態は何とか起き上がっている状態。まぁ大の字をした人形が奇跡的なバランスで立っているで良い。

「俺がお前に寄生して、腕とか脚になってやんよ。」

都合が良い。その嬉しさに笑みを浮かべてしまった。あ、態勢が崩れた。

「おい大丈夫か?自由が嬉しいのは解るが、無理すんなよ?」

心配しながらも配慮なしに胸の上に乗っかる。

「んじゃ、寄生するよ。耳の中入るね〜。」

「好きにしてくれ」

耳に入られるのは抵抗があるが、文句は言わないでおこう。

固形型だったものが液体になる。そして耳の中に入る。不快感が凄まじいが、スライム曰く、聴力に問題は発生しないそうだ。

「よし、腕を作るぞ。」

そう言われると、スライムが身体の中から溢れそうな気がした。すると、両腕に赤い物質が誕生していることが分かった。さらにその感覚は脚にも及んだ。

「痛え!」

「我慢してくれ」

骨が軋む痛みが走ったが、これは「俺は助けてやってんだ」によって文句を言う気が失せた。

「よし、完了だ。よく五月蝿く喚かなかった!偉いぞ!」

「何様だよ。」

あまりにも態度が大きすぎるので、少し言ってやったが、

「王様だよ。寄生生物の頂点様だよ。どうだ思い知ったか?」

本当に様が付く程偉い人物であった。思わず腕を組む。





───────別サイド

「我は世界の下見に行くとしよう。マップ把握は体験しないと不可能な物だからな。」

腕を組んで紅き眼を輝かせる男が居た。

「いんじゃない?」

帽子を被った男が得体の知れない炭酸飲料を飲みながら言った。

「軽い態度だな。」

冷たく見つめてその世界へとダイブしていった。

「ダイブボタンは間違えやすいからねぇ…」

管理者は缶コーヒーの○スを飲みながら少しカプセルを弄る。

「説明通りやってくれたかな?」



───────ついさっき


「よーし!このカプセルのだいたいの機能を教えるね!」

説明用NPCみたいなテンションで喋る。

「まず、マップ。これは世界の縮図だよ。ズームして街の詳細を見たりもできるから活用してね。次に、人物リスト!変なSEEDを持った人とか英雄とか強力な能力者を監視してるんだ!それから、災害コマンドとか天候コマンドとか生物コマンドとかも色々あるから使ってね。環境は弄れないから注意ね!(俺は弄れるけどね…)あとダイブボタンは大量の矢印テープの先にあるから」

「他に気になる機能があったら何でも訊いてくれ。」

ダイブボタンの説明は軽くした。分かってくれるだろうとの期待の眼をしていた。アホ毛を靡かせてるのは承知できないがね。

「分かった。必要に応じて訊く。」

耳掻きをしながら聞いていた者(アダム)が言った。

彼は態度が悪い。

───────今


底が時計になっている空間は健在であった。



「フッ…なかなかの光景だな。興がある。」

彼は底の時計と煌めく空間に大いに満足していた。



そして───────




「ここは、森か?ん?小屋か。良さげだな。」

眼を覚ました途端に視察を始めた。あまりに隙がない転換に空気が思わず凍てついた。紅き眼もまた凍てつく空気を際立てる。何故か彼は笑っていた。

「破壊するのに良さげだなぁ‼︎」

どこからか槍が顕現され、速度を測る事が出来ない天文学的なスピードで小屋と森の木々を殲滅した。

「誰も居らぬか…」

少し残念そうに手を降ろし、槍を地面に沈めた。否、沈めたと言うよりは地面に吸い込まれていったと言った方が正しい。

「気配はこの辺に確かにあった筈だ」

暫く辺りを見回して誰も居ないのを改めて確認された。

諦めて他を散策しようとした所に、山に芝刈りに来たであろうお爺さんが佇んでいた。

「命が惜しいか?ならば疾く失せよ!」

手を右に振って「どけ」と言った。

脚が竦んでいるのか、お爺さんは一歩も動けない。

「失せろと言っている!」

紅き眼で睨み付ける。が、やはり動かない。動けない。

「貴様…我否、俺を愚弄するか?ならばあの世で後悔しろ。さらばだ。寿命も全う出来ない愚か者。」

視覚が間に合わずにお爺さんは亡くなっていた。首から上がなかった。

「俺もやり過ぎたな。昔の癖が抜け切れてない証拠だ。っと言うよりは爺さんには悪い思い出が…まぁいいか。」

大きく溜め息を吐いて重力が軽過ぎると感じる程の浮遊に近いジャンプをした。相変わらずポケットに手を突っ込んでいる。

暫く飛び回って、見つけられたのは集落だった。そこには大きな繭のようなものがあった。

「確かこのオブジェは草原にも似た様なのがあったなぁ…あと池の真ん中…ほほう?成る程な。」

感情が昂っているのか、我口調が欠落している。興奮すると紅い眼が濃くなっているのはアイデンティティだ。

「よし、空に羽ばたくか。」

そう言って暫く動きを止めると、黒の翼が生えてきた。羽が地へとひらり落ちていく事が分かる。

「翼を授ける〜♪」

口笛を鳴らしながらどこかで聴いたようなフレーズを挿む。




───────主人公サイド


「小さな身体から腕を作るってどういう原理なの?」

「気にすんな。ご都合って奴だよ。補助キャラの義務。強いて言うなら魔素を吸収して膨張するスライムの特性を活かして形を変えてる。俺は上級スライムだから精密に変える事ができるし、超変態生物としての能力を活かして硬化とか色々できるから腕を作れるって訳だ。」

軽いトーンで訊くと、ちょっと雑に説明してくれた。

「これ以上は混乱するから説明しねぇよ。」

俺の手を勝手に使って肩を竦めている。

「何驚いてんの?言い忘れてたか。んじゃ

一言で言うと、使用権は俺にもあるんだ。」

勝手に頭を掻く。それが優しいからまだ容認できる。しかし俺は複雑な気分になっているのでイライラしたような顔になっている。

(コイツ…剥がした方がいいのか?)

俺が少しもがくと、スライムの形状が変わった。それはアイスピックの様だった。

それはいきなり振り下ろされ、俺の腹を傷付けた。血が徐々に量を増やしながら垂れていく。

「痛ってえ!何すんだよ!いきなり身体になるし、何なんだよ!?」

少し悶絶していたが、痺れを切らして怒りを露にした。

「ん?あぁ。君が俺を剥がそうと考えたからかな。恐怖で服従は出来ないタイプの人間か君は。良かった良かった、君は俺のパートナーに最適だ。君なら信頼できるね。まぁ君は俺を信頼しないと思うけど。いや別に君を傀儡にする気はないからね。君には謎の才能を感じるんだ。それを産廃にしてまで得る支配欲なんて俺にはないし(笑)そもそも俺は暴力は好きじゃないんだ。あ、今俺が饒舌になってるからって疑わないでよ。パートナーに疑われる険悪な状態でこれから冒険はしたくないんだよ。あ、この際説明しとこう。俺は国が退屈すぎて隣国に亡命したんだけど、隣国が人間至上主義者の国で迫害されちゃったんだよね。だから草木生い茂る山で原点回帰しようと思ったらたまたま良さげな民家があったからお邪魔したんだ。それがここ。たまたま優しそうな手足のない若い男性が居たから本人の承諾を得て腕となり足となりサポートすることで楽しさを得ようとしたんだ。そして現在のちょっと複雑な気分に至ると。」

「長く喋んの疲れるんだよ?少しは考えてね。」

終始無表情でベラベラと喋り尽くした。

「おっ…おう。」

精神的に封殺されてしまった。

「よし!分かってくれたみたいだね。ならば俺を使いこなす特訓をして貰おう!」

いきなり妙な提案をしてくる。

「俺は様々な武器に変化することが出来るのだ!」

手が弓になったり、剣になったり、銃になったりした。だから勝手に人の手を動かすなって。

「一応戦車にもなれるし、戦闘機にもなれるよ!その場合汎用性は低いけどね。あ、因みに俺の腕だから。」

戦車とかの戦争用兵器を片手にするのはナンセンスかなぁ…と思った。

「これが王にしか見えん景色だ!」


勝ち誇った顔で腕を組む。



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