これより

「蛇結茨(じゃけついばら)、羊蹄(ぎしぎし)」

 火威(かい)は言葉をひとつひとつ確かめながら、丁寧に名を述べてゆく。二頭の獣が先程の駒草(こまくさ)に続いて、ぞろぞろと転変した。どちらも雄で、また、身体と同色の髪をしている。

 ――そういえば。

 中央に控える駒草を見ると、彼女も確かに鬣と同じ髪の色をしていた。白い和紙に駒草色を垂らしたよう。毛先は透き通る象牙のごとく。いまは弓道着に似た衣装をまとっているが、袴は男性が穿く乗馬用のものであった。髪は後ろの高いところでひとつに纏められており、その両側に馬の耳がピンと立っている。

 駒草はきゅっと唇を引き結び、頭は下げたままだが、凛とした表情で両脇の獣者を見守っていた。三頭が転変したのを確認し、口を開いたのは杏(きょう)であった。

「長旅ご苦労様でございました。叩頭できぬ非礼をお許しください」

「いえ、杏殿こそ、今まで炎帝樣をお守りいただき感謝申し上げます」

 傅いた姿で駒草は答える。次いで火威に向かってこれからの予定を述べた。

「それでは炎帝樣。これより各星々に、ご挨拶へといらっしゃいましょう。まずはお召し物を整えなければなりませんね」

 お召し物。言われて火威は考える。空腹ではないはず、と自らの腹に右の掌を添えると、滑らかな肌に触れた。

 そこで幼仔(おさなご)は、自分が裸体であることを知ったのだ。

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