第132話 卒業式③
「お前ら……本当にあと少しでお別れになるな……」
そう言う先生の目元は真っ赤だ。
「お前ら……あんだけ先生の方見るなって言ったのに見やがって……」
「もうあれは見てくれっていうフリでしょ先生!」
笑いながら言うのは阿部さん。 阿部さんの目元も先生に負けないぐらい真っ赤だった。
他にも目元が真っ赤な人が何人かいる。 少なくとも殆どのクラスメイトが先生の涙を見て、グッと感じるものがあった。
「はぁ……ったく……。 まぁいいや。 お前ら、最後のHR始めるぞ。 先生からの最後の言葉、よーーく耳かっぽじって聞けよ」
壇上に立っている先生はため息を吐いた後、キリッとした表情と雰囲気を出す。
それを見て、俺たちもさっきまでの緩い雰囲気から一転して、真剣に話を聞く体勢になった。
「お前ら卒業おめでとう。 そして、ここまで息子さん、娘さんを大きく育て上げた保護者の方々。 この度は卒業おめでとうございます」
先生が一礼すると、教室の後ろの方にいる保護者の人たちも頭を下げたのが目に入った。
そこには俺の母さんと父さん、茜さんと亮太さんがいた。
あ、奥の方を見たらユウマとツバサ、チアキの母さん達も来ているな。
「これから高校生活が始まります。 生徒達は環境が変わることはもちろん、保護者の方々もお子さんが高校生になるということで、少し手が離れることになるかもしれませんね」
先生の話をクラスにいる人間全員が聞く。
「生徒達は新しい生活に対する期待からのドキドキワクワクを感じる人もいれば、不安からのドキドキを感じる人がいるかもしれないな。 保護者の方々にとっても手が離れてホッとする方もいれば、寂しく感じる人もいるでしょう」
「私が言えることは3つ。 1つ目は生徒達に伝えるな。 これからお前らは大きくなって色々なことを経験するだろう。 嫌な思いや辛い思いをすることもあるだろう。 そんな時は友達でも良いし、親でもいい。 信頼できる人に頼りなよ。 信頼できる人がいないってんなら、俺が悩み聞いてやる。 とりあえず言いたいことは、"お前は1人じゃない"ってことだ。 なにかあった時は、そういや中学の先生そんなこと言ってたなって思い出してほしい」
先生の言葉を聞いて、俺たちは元気よく返事をした。
「2つ目は保護者の方々に伝えます。 生徒達は徐々に色々なことができ、考えるようになってどんどん大人になっていきます。 でも、ダメなことはダメだとしっかり伝えることは心がけるようにしましょう。 でも、そういうのって難しいですよね。 私も皆さんと同じ年頃の娘を持つ父親として、日々苦労しています。 特に娘さんを持つお父様は苦労しているかもしれませんね」
先生が苦笑いしながら言うと、それを聞いて亮太さんが噛み締めるように頷く。
……苦労してるんだな。 俺も娘ができたらそんな感じになるのかなぁ。
「息子さん、娘さんに嫌われるのは怖いことです。 その気持ちは私もよく分かります。 でも、ダメなことはダメだと保護者の方々は子ども達に伝えて下さい。 子ども達にとってやっぱり1番信頼できる大人は親御さんだと思いますし、1番近くで子どもを守ることができるのは親御さんだと思います。 絶対親が言ったことが子ども達のためになるとは言えませんが、言うことで変わることもあります。 恐れずにダメなことはダメと伝えましょう。 しかし、やっぱりその辺の境界線は人それぞれで難しいですよね。 私も日々悩んでいます。 なので、同じ子を持つ親として、これから一緒に頑張っていけたらいいですね」
先生の言葉を聞いて、保護者の方々は頷いたり、返事をした。
「3つ目はここにいる全員に伝えます…………お前ら、最高に楽しかったぜ。 もし、同窓会とかがあるなら、楽しみにしてるからな? 誘ってくれよ? ハブられたら、先生泣きながら家に電話するからな!!」
「いや、こええよ!!」
「メリーさんかなにかですか!?」
先生が笑いながら言うと、思わず生徒達からツッコミが入る。 それを聞く先生は笑顔だし、言っている生徒達も笑顔だった。
「さて、私からの言葉はこれで最後になります。 それじゃあ、締めの挨拶をーーーーーーー」
「先生待ってください!!」
締めに入ろうとする先生をユウマが止める。 先生はキョトンとした顔を浮かべていた。
「まだ締めの挨拶には早いっすよ」
「そうですよ! まだやるべきことが残ってるんですから!」
ツバサとチアキが顔を見合わせながら笑う。
「本当本当。 伝えたいのは先生だけじゃないんですからね!」
「うちらも伝えたいことはあるよ!」
「先生、聞いてくれますよね??」
近藤さんと阿部さん、村上さんが顔を見合わせて委員長の方を向く。
すると、委員長は頷いて立ち上がった。
「先生。 私達からも伝えたいことがあります」
「お、おう……?」
委員長が先生の前まで行くと、みんな立ち上がる。 それを見て先生と保護者の方々はざわついていた。
「先生。 親身になって俺たちのこと、支えてくれてありがとうございました!!」
「春名……」
「みんな先生にはすっっごく感謝しているんです!! だから……これは私達の気持ちです。 先生、受け取って下さい!!」
鈴がそう言うと、委員長はポケットから小さな箱を2つ取り出す。
それを見て、俺たちは実は卒業式が終わってからすぐにポケットに入れていたクラッカーを取り出し、鳴らしたのだった。
パーン! パンパンー! パーン!
「先生ありがとうございました! これは私たちの気持ちです!」
「お、お前らぁ……ありがどなぁ……!」
先生は目を丸くした後、状況を理解したのか状況に涙目になって泣き始める。
それを見て、俺たちも涙が溢れたのだった。
「ぐすっ……箱、開けていいか?」
「開けて開けて!」
「むしろここで開けてくれないと困りますよ!!」
生徒達に進められて先生は箱を開ける。
中から出てきたのは紺のネクタイと写真立てだった。
「ネクタイと写真立てか……! お前ら、ありがとうな。 大事に使わせてもらうよ!」
「何言ってるんですかぁ。 今からそのネクタイをして、みんなで写真を撮るんですよ」
「へ……?」
「そして、その写真を写真立てに入れるんっすよ! ほらほら、みんな先生を囲んで囲んで!」
ツバサがそう言ったので、みんなで先生を囲んで写真を撮る準備をする。
気づいたら写真部だったクラスメイトが、保護者の人にカメラを渡していた。
「ちょっ! ちょっと待てお前ら! 俺、泣いてるから人様に見せにくい顔してるんだが!?」
「そんなの関係ないですよーだ! すいません! 写真、お願いしまーす!!」
阿部さんが明るい声で言うと、保護者の人がカメラを構える。
それを見て、先生は観念したのだった。
「まったく……とんだサプライズだよ」
「でも、嫌じゃないですよね?」
「……そりゃそうだ。 最高に嬉しいよ」
「それじゃあ、写真を撮りますよー! みんな笑ってーーー! ハイ、チーーーズ!!」
カシャ!!!
みんなカメラの方を向いて各々好きなポーズを取る。
みんなの顔には最高の笑顔が浮かんでいたのだった。
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