第131話 卒業式②

『長いようで短かった中学校の3年間が終わり、今日、私達はこの学校を卒業します』


 体育館に集まっている人の視線を一心に受け止めるのは元生徒会長だ。


 手には原稿用紙を持っていて、大勢の前でも気丈に話している。


 凄いなぁ……あんな大勢の前で話をすることができるなんて。


 俺だったら緊張して声が震えるだろうな。


『体育祭や文化祭、修学旅行など色々な行事がありました。 その中でも私が印象に残っているのは修学旅行です。 修学旅行ではーーーーーーー』


 元生徒会長の演説をみんな聞く。 


 普段はあまり真剣に聞いていないけど、卒業式だからか多くの生徒がジッと見ながら真剣に聞いていた。


『長くなりましたが、これにて私からの卒業生代表の言葉は終了とさせていただきます……ありがとうございました……!』


 元生徒会長の演説が終わると、体育館が割れるんじゃないかと思うほどの拍手が湧き上がった。


 それを見て元生徒会長はグッと口を一文字に結び、顔を上にあげた後、ピシッと背中を伸ばしながら壇上を降りた。


 元生徒会長が自分の席に座ると、周りにいる生徒が肩を叩いたり、軽く声をかける。


 すると、元生徒会長は少し背中を丸めて身体を震わせていた。


 …………お疲れ様。 かっこよかったよ。 あんたが俺達の代の生徒会長で良かった。


『次は在校生からの送辞です』


 アナウンスを聞いて壇上に上がるのは現生徒会長だ。


 元生徒会長があんだけ良い演説をしたんだ。


 プレッシャーハンパないだろうな。


『 冬の寒さが和らぎ始め、陽の光や風の暖かさに春の気配が感じられる今日の良き日。 先輩方、ご卒業おめでとうございます』


 そう言って頭を下げる生徒会長。


 部活も違うし、委員会にも入ってなかったから1回も話したことないけど、凛とした佇まいでハキハキ話す今の生徒会長は頼もしく見えるな。


『この場に立ち、先輩方の姿を目にしておりますと、数々の思い出が溢れんばかりに浮かんできます。 特に思い出されるのは体育祭でーーーーーーー』


 生徒会長の言葉を聞き、後ろの方で少しだけ啜り泣く声が聞こえた。


 後ろにいるのは在校生達だ。 きっと先輩との思い出が甦っているんだろうな。


 …………俺、良い先輩だったかな? 後輩達が俺たちのことを思って泣いてくれたり、気持ちを震わせてくれているなら、俺は嬉しいな。


『長くなりましたが、これにて私からの卒業生を贈る言葉は終了とさせていただきます……ありがとうございました……!』


 生徒会長が深々と頭を下げると、またしても割れんばかりの拍手が湧き上がる。


 それを見て、生徒会長はホッと安心したように一息ついていた。


 ……お疲れ様。 


 俺は生徒会長が自分の席に戻る様子を見る。


 その時、視界の中に担任の先生が目に入った。


 ……ッ!? なんだよ。 泣くなら声に出して泣いてくれよ。


 口を一文字に結んで、涙目でなんとか泣かないように顔を上にあげて堪える姿を見ちゃったら、俺も泣いちゃいそうになるだろ……!!


 俺は急いで顔を背ける。


 すると、クラスメイトの何人かが泣いているのが見えた。 周りを見ると俺と同じで泣きそうになっている生徒が何人かいる。


 どうやら俺と同じで先生の姿が目に入ったみたいだ。


「……ぐすん」


 鼻を啜る音が聞こえたので目だけ横に動かしてみると、阿部さんがハンカチで目元を押さえている。


 それを見て、鈴もポケットからハンカチを取り出して涙を拭いていた。


 …………これは、俺もハンカチを使う時がくるかもしれないな。


 俺はそんなことを思いながらいつでもハンカチを出せる準備をして、そのまま卒業式に参加したのだった。




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