第130話 卒業式①
「……お前ら、この3年間よく頑張ったな」
壇上に立っている担任の先生が、俺たちを見渡しながら感慨深そうに話し始める。
今日の先生はバッチリスーツを着こなしていて、胸元のポケットには造花がつけられていた。
ちなみに俺たちの胸元にも造花が1人1個ずつつけられている。
…………今日で中学の制服を着るのも最後か。
俺は椅子に座りながら自分の制服を見る。
最初はブカブカだった制服も、今ではピッタリ着こなすことができる。
袖のボタン、何回も母さんに縫ってもらったな。
最初の頃はネクタイをつけるのも一苦労したっけ。
制服を見ていると色々なことを思い出し、少し寂しい気持ちになる。
俺が着ている制服は、俺と入れ替わりで入学する母さんの友達の息子に譲ることになっている。
だから、俺がこの制服を着るのは正真正銘これで最後だ。
…………大切に扱ってもらいなよ。
俺はそんなことを思いながらそっと制服を撫でた。
「俺たちはあと少ししたら廊下に出て、1組から順に体育館に向かっていくぞ。 それまでは待機だ」
俺は上の方にある時計を見た後、手元にある卒業式の予定表を見る。
後5分ぐらいしたら体育館に向かうのか……。
去年は卒業生を見送る立場だったけど、今年は見送られる立場。
親や後輩達に見られるから、なんだか緊張するな。
…………絶対、卒業式中は泣かないようにしよう。 泣いたら揶揄われるのは目に見えてるからな。
「それにしても、生徒が卒業するのはいつまで経っても慣れないよ」
壇上にいる先生はそんなことを言いながら、俺たちに話し始めた。
「いいか。 これまでの経験上、先生は絶対卒業式中に泣く」
そんなはっきり言えるのか……。 逆に今年先生泣かなかったら、それはショックだな。
「だから、絶対俺の方は見るなよ。 これは先生との最後の約束だからな!」
「そんなこと言われたら、気になって見ちゃいますよ!」
阿部さんが笑いながら言うと、みんなそうだそうだー!と大ブーイング。
しかし、みんな笑顔を浮かべていた。
「これ、毎年卒業生に言うんだけどな。 阿部の言う通り気になってみんな見ちゃうんだよ」
「なら、なんで言っちゃうんですか?」
「先に宣言した方が泣いた時に恥ずかしさが減るからな!!」
「それはなんかずるいですよ!」
「いいか? 大人ってのはずるいんだよ!!」
先生の言い分に思わず俺たちは笑ってしまう。
笑うことで、なんだか緊張とか寂しい気持ちが少し薄くなったような気がした。
『時間になりました。 3年1組から順に体育館へと向かって下さい』
校内放送が流れる。 俺たちは席を立ち、先生の指示に従って廊下に出た。
そして、俺たちは体育館へと向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます