第129話 最後の塾
「これで2人に会うのも最後になるのね……感慨深いわ……」
「北山先生……」
「……ぐすん」
受験が終わり、残った大きなイベントは卒業式だけとなった2月の下旬。
ついに俺たちは約2年通った塾を辞めることになった。
今は塾で最後の授業を受け、後は帰るだけ。
でも、俺と鈴はなかなか立ち上がることができなかった。
「北山先生のおかげっすよ。 俺たちがここまで頑張れて□□高校に合格できたのも」
「本当に北山先生ありがどゔ! 私、絶対先生のこと忘れないからぁ!!」
「……松田さん!!」
「先生ぇ!!」
鈴は号泣しながら北山先生に抱き付く。
そんな鈴を優しく受け止め、北山先生はギュッと抱き返した。
目元には涙が浮かんでいる。
それを見ると、おもわず俺も涙が溢れそうになった。
「2人とも、私の自慢の生徒よ……! こちらこそ、ありがとね」
「ッッ……!! 先生……!!」
「先生ぇぇぇぇぇ!!」
俺は北山先生の笑顔を見て、流すつもりはなかった涙が勝手に溢れてきた。
くそっ……! 泣くつもりなんてなかったのに……なかったのにぃ……!!
「ほら、春名くんもおいで」
泣いている俺を北山先生がギュッと抱きしめてくれた。
北山先生の腕の中に俺と鈴が収まる。
普段なら恥ずかしくてすぐに脱出しようとするけど、今日の俺は動くことができなかった。
「私まだここで先生する予定だからさ、2人ともなにかあったらおいでね」
「「はい!」」
「あ、後、外で私のこと見かけたら遠慮なく話しかけてきてよ? 話しかけてくれなかったら、私泣いちゃうかもしれないから」
「絶対に話しかけまずゔ!!」
「……話しかけます」
「松田さんは信用できるけど、春名くんは本当かなぁ??」
「なっ!! 本当ですよ! 話しかけますよ!!」
「恥ずかしくて話しかけないとかなしだからねっ」
「……はい!」
俺たち3人は時間が許す限り、思い出話やこれからについて話をする。
北山先生は教師という夢の為にこの塾で先生を始めたとか、俺たちと初めて会った時の印象など話題は尽きなかった。
しかし、時間はどうしても過ぎてしまうもので、気付いたら塾の閉館時間ギリギリになっていた。
「あ、気づいたらもうこんな時間……最後だし、玄関まで見送るね」
俺たちは北山先生と一緒に玄関へと向かう。
すると、そこには数人の先生と塾長、阿部さん達がいた。
どうやら阿部さん達も、時間ギリギリまで担任の先生と話をしていたみたいだ。
全員目元が赤く、俺は何も言わずに目を背ける。
きっと俺と同じように泣いたんだろうな。
でも、中3になって異性に泣いたってのがバレるのは恥ずかしくて嫌だろうから、俺は気づいていないフリをした。
「お前ら、またこいよ」
「みんな元気でね」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
俺たちはお礼を言って塾を出る。
外に出ると冷たい風が吹いていて、改めて冬だなと感じた。
「……みんな目、真っ赤じゃん」
「そういう光だって真っ赤でしょ」
「あはは。 今日はしょうがないよ。 だって、最後の……塾……だったんだからさぁぁ……」
「もう……鈴、泣き顔が残念なことになってるよ。 はい、ティシュ」
「ありがとう琴……ちょっと待って。 残念なことになってるってなによ!」
「怒ってると春名くんに呆れられちゃうわよ?」
「そんなことないよ凛!……そんなことないよね? 陸くん」
「そんなことないよ。 そこも愛嬌の1つさ」
「陸くん……!」
「カーッ! 見せつけてくれますねぇ! ったく、末長くお幸せにー!!」
俺たちはそんなことを話しながら駐輪場へと向かう。
そして、自転車に乗って塾を少し見た後、俺たちは思い出話に花を咲かせながら、それぞれの帰路へとついたのだった。
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最終話まで書けたので、毎日19時〜21時の間で更新します。
133話+あとがきで完結です。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
作者
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