第111話 彼女のお家に遊びに行きました。 ⑤
「あ、愚痴ばっかり言ってごめん。 退屈だったよね……」
鈴が愚痴を言い始めて30分ぐらいたった。
ある程度吐き出すとスッキリしたようで、さっきまでの止まらなかったマシンガントークは鳴りを潜めて、今は申し訳なさそうに俺のことを見ている。
確かに鈴の愚痴が思った以上に長かったのはビックリしたけど、正直愚痴を言ってくれるようになったことが俺はなんだか嬉しかった。
「退屈じゃなかったし、全然大丈夫だよ。 むしろ、鈴が俺に愚痴を言ってくれたことが少し嬉しい」
「え、なにそれ?」
「だって、鈴って俺の前であんまり弱さを見せないというか、愚痴なんて言わないじゃん」
俺が怪我して凹んだ時なんて俺を支えてくれたし、鈴と出会ってから鈴が弱っている姿なんて見たことないよ。
「た、確かにそうかも……」
「だから、鈴が愚痴とか言ってくれて少し安心したところがあるんだよね。 鈴もちゃんと弱さとか持ってるんだーって」
「なにそれ。 私だってか弱い乙女だもん! 愚痴だって言いたくなるし、弱さもあるよ」
「それは人間だからあるのは分かってるよ。 でも、実際に見たり聞いたりするのとでは違うじゃん?」
「確かにそうだけどさ……」
「だって俺なんて凹んでいる時に支えてもらったり、普段から元気や勇気貰ってるんだよ? 俺の中では鈴って凄い人のカテゴリーに入ってるんだから」
「そ、そうなんだ……」
「そうなんだよ!!」
鈴は俺の言葉を聞いて少し照れている。
……鈴は恥ずかしいことを俺に話してくれた。
なら、俺も恥ずかしいこと、いや、鈴には言ってなかったことを言おうかな。
「鈴が恥ずかしい中話してくれたからさ、俺も一つ鈴に言ってなかったこと言うよ」
「え、なになに?」
俺は息を吸って鈴のことを見る。
そして、話し始めたのだった。
「俺が最初に鈴をデートに誘ったことあるじゃん? あの時、期末試験で平均点70点をとるか、部活で夏休み中にある陸上大会で予選を突破する。 このどっちかをクリア出来たら、俺は鈴を自分から夏休みに遊びに誘おうと思ってたんだ」
「え、そうなの!?」
「そうなんだよ。 なのに、俺って期末テストで平均点70点以上取ったからすぐに鈴をデートに誘っちゃったんだよね」
「でも、どっちかクリアできたら私を誘おうと思ってたんでしょ? 期末テストはクリアできてるんだから良いんじゃないの?」
鈴が?マークを浮かべながら聞いてくる。
確かに鈴の言う通りだ。
でも、俺はそのことを正直後ろめたく思っていた。
「確かに期末テストはクリアできたよ。 でも、大会の前にデート誘っちゃったし、その大会では予選を突破することが出来なかった。 確かにどっちかクリアしたらーーとは思っていたけど、どこか俺の中で引っかかってたんだよね」
「そうなんだ」
「だから、このことは誰にも言わないようにしようって思ってたんだけど、鈴が恥ずかしい中『あのこと』を話してくれたから、俺もこのことを言った方がいいなって思ったんだ」
「そうなんだ……陸くん、話してくれてありがとね」
「ううん。 むしろ鈴が話してくれてありがとね」
俺たちはお互いお礼を言うと、場に沈黙が降りた。
しかし、少しすると鈴が俺の顔を見ながら話し始めた。
「陸くんにとってはあんまり言いたくなかったことかもしれないけどさ、私は聞けて嬉しかったよ! それに、陸くんがあの時デートに誘ってくれたから、今の私達の関係があるんだと思う。 だから、むしろあの時私のこと、デートに誘ってくれてありがとね」
「鈴……」
「あ、あぁ〜〜なんだかお互い恥ずかしいこととか話してたら部屋暑くなってきたね! 窓開けていい?」
「う、うんいいよ!」
鈴は少し頬を赤くしながら窓へと向かう。
俺も少し恥ずかしさで身体が熱くなっていたから、新鮮な空気が入ってくるのは大歓迎だった。
「あっ!!」
「ん?……うぉ!?」
鈴の声が聞こえたのでそっちの方を見てみると、胡座をかいている俺のところに温かいなにかが座った。
俺は慌てて自分の股の方を見る。
そこには身体を丸めてくつろいでいるナナちゃんがいた。
「ナ、ナナちゃん……!」
「ふふ……ナナも空気読んでくれてたのかもね。 ありがとね」
鈴は俺の近くに座り、ナナちゃんの喉の下を優しく撫でる。
ナナちゃんはゴロゴロ言いながら目を細めて気持ちよさそうにしていた。
「陸くんもナナ撫でてあげてよ。 この子撫でられるの好きだからさ」
「え、いいの?」
「いいよいいよ。 それに、陸くんのそこに座ったってことは、ナナは陸くんが好きってことだよ!」
「そ、そっか……じゃあ、遠慮なく」
俺は恐る恐れナナちゃんの背中を撫でた。
ナナちゃんはなされるがままだ。
お、おおぅ……サラサラしてて気持ちいいな。
「よかったねナナ〜。 陸お兄ちゃんが撫でてくれて」
「ナ〜」
鈴の問いかけにナナちゃんは鳴き声で返事をする。
か、可愛いッ!!
「ふふ……なんだか、この雰囲気良いね……」
「確かにそうだね……心がホッとするね……」
「うふふ……」
「へへへ……」
俺たちはナナちゃんを愛でながら、穏やかな時間を過ごしたのだった。
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