第110話 彼女のお家に遊びに行きました。 ④

「そういえばさー」


「ん? どうしたの陸くん?」


「鈴がさっき言ってた『あのこと』ってなんなの?」


「んぐぅ!?」


「ちょっ!? 鈴大丈夫!?」


「ゲホッ。 だ、大丈夫! ビックリしてちょっとむせただけだから!」


 雑談を始めて数十分。 緊張なども解けてきて、普段通りに会話ができるようになっていた。


 そこで、俺はさっき鈴が言っていた『あのこと』について聞こうとした。


 すると、鈴は楽しそうな顔から一変してビックリした表情になり、むせてしまった。


 う〜ん……やっぱり聞かなかった方がよかったかな?


「ごめん。 鈴が恥ずかしがっているのに、聞こうとした俺が間違ってたよ」


 俺は鈴の背中を摩りながら謝る。


 うん。 やっぱり興味があるからって、聞くのはいけなかったな。


「別に謝ることじゃないよ! 私がちょっと恥ずかしいっていう話だし!……でも、待てよ……」


 鈴が慌てて顔を上げて話し始めたと思ったら、顎に手を置いてなにかを考え始めた。


 ど、どしたんだろう? やっぱりデリカシーなかったよな……。


「……陸くん。 『あのこと』について話してもいいよ」


「えっ!? でも恥ずかしいから嫌なんじゃないの? 俺が言うのもあれだけどさ、無理しなくていいんだよ?」


「お母さんが『あのこと』を言う可能性大だから、お母さんに言われるぐらいなら私から陸くんにお話しするよ。 その方が私の精神的ダメージも少ない筈だし」


「そ、そうなの?」


「そうなんだよ」


 そ、そっかぁーー!!


「じゃあ、『あのこと』について話すね……」


「う、うん……」


 俺は唾をゴクッ飲み込む。 場に緊張感が走った。


 それに気づいたのか、さっきまで昼寝をしていたナナちゃんの目がパッチリと開いていた。


「実はね私ーーーーーーー玄関で顔真っ赤にして手で唇を触りながら、『キスしちゃった……』って呟いてたらしいの!!」


「……え?」


「鏡見ながらだらしがない顔していたってお父さん言ってたし、お母さんが言うには完全に女の子から、女性の顔になってたって言ってたの!!」


「しかも、その後嬉しくてその場で足を踏み鳴らしてるところ両親に見られたし、お母さんにいたっては動画まで撮ってたんだよ!? 酷いと思わない!?」


「お、おう!」


 確かにそれは恥ずかしい。


 もし俺が鈴の立場になったら、両親とは一日中口を聞かない自信がある。


「しかもさ、そこで完璧に彼氏の存在がバレてさ、私の誕生日会はただの暴露会になったんだよ!? 普通さ、娘にも多少なりとは遠慮すると思うんだけど、お母さん全然遠慮せずに聞いてくるの! 可笑しいと思わない!?」


「た、確かにそうかもね。 俺も鈴の立場だったら恥ずかしさで穴に埋まりたくなると思う!!」


「でしょー?? 後ねーーーーー」


 鈴は話し始めるとヒートアップし、愚痴を俺に言い始めた。


 それを俺はうんうんと相槌などを打ちながら、鈴が気の済むまで愚痴を聞いたのだった。



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