第107話 彼女のお家に遊びに行きました。 ①

「うわぁ……何回も見たことあるのに、すっごく緊張する……!」


 俺は鈴の家の近くで1人呟く。 目と鼻の先には何回も見たことがある鈴の家がある。


 でも、近くまで来たことはあっても入ったことはない。


 何回も見たことがある家なのに、いつもとは違う印象だった。


「服装とか大丈夫だよな……?」


 俺は近くのカーブミラーで服装を確認する。


 うん。 母さんがしっかり洗濯やアイロンをしてくれたから、埃もついてなくて綺麗だ。


 歯もいつも以上にしっかり磨いたから、口臭とかも大丈夫なはず。


 髪も来る前にしっかりお風呂に入ったから、サラサラのはずだ。


 清潔感はしっかりあると思う。


 なのに、緊張からかソワソワが止まらなかった。


「もうちょっと髪梳いとこうかな……」


 俺は邪魔にならないところでカーブミラーを見ながら手櫛で髪を梳く。


 ……よし。 これで大丈夫のはず!


 じゃあ……行くか!!


 俺はドキドキしながら鈴の家の前に立つ。


 綺麗な一軒家で、白が基調となっているお洒落な家だ。


 ガーデニングが丁寧にされていて、清潔感をとても感じる。 


 蔓がお洒落に巻かれていたり、絡み付いているので、テーブルや椅子を置いたら外でお茶会が出来そうだ。


「……よし」


 俺は門を開けて中へと入る。


 そして、玄関でインターホンを鳴らした。


 少しすると『はーい』と言う鈴の声が聞こえる。


 俺はそれに返事をしようとしたけど、ある声に遮られてしまった。


『ねぇねぇ鈴の彼氏遂に来たのね!』


『ちょっとお母さん煩いよ!』


『だって娘の彼氏が来たのよ!? 煩くもなるわよ!』


 ……うぉぉ。 この感じ。 もしや鈴のお母さんは結構パワフルな人なのかな?


『煩くてごめんね陸くん! 直ぐに行くから!』


 鈴がそう言うとインターホンが切れる。


 少しすると明るくハキハキした声と、注意している鈴の声が中から聞こえてきた。


 そして、玄関のドアがゆっくりと開かれた。


「こんにちはー陸君! はじめましてー!!」


「ちょっとお母さん! なんで私よりも先に出るのよ!」


「暑かったでしょ〜? ささ、中に入って入って!」


「お母さん聞いてるの!?」


 中から出てきたのは黒髪ロングヘアで、鈴と同じ大きな真ん丸な目を輝かせている女性だった。


 鈴と違うのは身長が女性の中では少し高いところと、少し顔立ちが凛としているところ。


 きっと鈴が大学生とか大人になったら、こんな感じになるんだなって想像できるぐらい似ていた。


「は、はじめまして春名陸です! こんにちは! お邪魔します!」


 俺は挨拶をして頭を下げる。


 そして、母さんから渡された菓子折りを差し出した。


「あらあらこれはご丁寧にありがとうね」


「い、いえ!」


「うんうん。 いいわね〜この初々しい感じ! 可愛いわ〜!!」


「あ、ありがとうございます……?」


「ちょっとお母さん! 陸くん困ってるじゃない! ごめんね陸くん」


「大丈夫だよ大丈夫」


 美人な女性に褒めらてる?なら嬉しいし、彼女のお母様に好印象を持たれているなら全然ありだ。


「こんなお母さんがいるけど、とりあえず家に上がってよ」


「ちょっと鈴! こんなお母さんってなによ!」


「あ〜もう! お母さんはお茶淹れてきてお願い!」


「まったく……しょうがないわねぇ……」


 鈴のお母さんはそう言うと、中へと入っていく。


 な、なんだか嵐みたいな人だな。


「お母さんちょっとテンション上がってるんだけど、あんまり気にしないでね」


「り、りょーかい」


「じゃあ遅くなったけど、陸くんどうぞ」


「お、お邪魔しまーす」


 俺は鈴に誘われて家の中へと入る。


 そして鈴の案内の下、リビングへ向かったのだった。

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