第106話 中学最後の夏休みです。

「えーそれでは皆さん。 休みだからといって羽目を外しすぎないように。 遊ぶ時はしっかり遊び、勉強する時は勉強する。 メリハリをつけて楽しい夏休みにしてくださいね」


 そんなことを教壇に立つ校長先生が話す。


 体育館のドアを開けて扇風機を回しているけど、全校生徒と先生達が集まってかなりの人数になっているから、正直ほとんど温度は変わっていないような気がする。


 体育館にエアコンつければいいのに。


 そうしたら、体育の時も快適に運動できるのに。


 あ、でもバトミントンとかは風の影響受けるから、エアコンつけたら逆にやりにくいのかな?


「それじゃあ、1年生から順に教室に帰りましょう」


 司会の先生がそう言うと、1年生からそれぞれの教室へと戻って行く。


 こうして見たら、結構学年ごとにみんな反応が違うな。


 1年生は中学生になって初めての夏休みだから、ドキドキワクワクしている感じだ。


 2年生は1回中学生の夏休みを体験しているから、1年生よりも少し落ち着きがあるけど、それでも楽しみにしていることが言動から分かる。


 3年生は部活最後の夏だったり、受験の為に追い込む夏休みになる人が多いから、楽しみっていう感情と、嫌だっていう負の感情が半々ぐらいに見える。


 俺が1.2年生の時の3年生もこんな感じだったのかな?


「じゃあ、次は3年5.6.7組。 教室に戻りましょう」


 司会の先生の指示に従って俺たちは教室へと戻ろうとする。


 体育館を出ると蝉の鳴き声と、暖かい風が俺達を出迎えてくれた。


 下を見るとコンクリートから陽炎が見える。


 空を向くと、わた雲がボチボチ浮かんでいた。


 このわた雲が縦になると積乱雲っていう雲になるんだっけ。


「ねぇねぇ陸くん」


「ん?」


 俺はボーと空を眺めていると、隣に鈴が駆け寄ってきて小声で話しかけてきた。


 今渋滞していて前に進めないけど、先生が今の鈴を見たら怒るんじゃないかな?


 列を乱すなー!って。


「どうしたの鈴。 列に戻らないと先生に怒られるかもよ?」


「大丈夫だよ。 だって先生今ここにいないもん」


「そうなの?」


「うん。 さっき7組の先生に呼ばれてどっかに行っちゃった」


「そうなんだ」


「で、陸くんはさ、夏休みの予定って今のところどうなってるの?」


 鈴の質問を聞いて、俺は予定を頭の中に思い浮かべる。


 えっと確か……。


「最後の大会が7月下旬にあって、塾の模試が7月中旬と、8月の下旬にあるかな。 後はお盆におばあちゃん家に行ったり、チアキの家でお泊まり会するぐらいだったと思う」


「じゃあ、○○日って予定ある?」


「○○日?……いや、特になにもなかったと思うけど」


「じゃあさ、○○日に家に遊びにきてくれない?」


「え……鈴の家に?」


「うん。 実はお母さんに彼氏の存在バレちゃって、会わせろってすごく言われてるんだよね」


「ま、まじか……」


 正直緊張する。


 でも、鈴は急だったけどしっかり俺の母さんと父さんに会ってくれた。


 なら、彼氏の俺だって頑張らないといけないよな。


「うん。 分かった。 じゃあ、○○日に鈴の家にお邪魔させてもらおうかな」


「!! 分かった! じゃあ、お母さんにもそう伝えとくね」


「うん。 よろしくね」


 さて、中学生活最後の夏休みがこれから始まる。


 まずは第一関門、彼女のお母様に挨拶を頑張るか。

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