第105話 学校の図書室で勉強会です。

 パラッパラッ。 カリカリカリ……。 チクタクチクタク。


 学校の図書室には夕日が差し込み、ペンを走らせる音と時計の音が聞こえる。


 辺りを見渡すと図書委員が受付であくびをしていた。


 他には夕日を浴びながらスヤスヤと昼寝をとっている女の子や、俺達と同じように勉強している生徒が数名いる。


 3クラス分の生徒が入っても窮屈に感じない図書室だけど、あまりの人の少なさにいつも以上の解放感を感じた。


「うーん……ん? んん?」


 辺りを見渡していると、俺の目の前で数学の問題に四苦八苦している鈴が小さな唸り声をあげていた。


 今日は2人とも部活が休みだったので、放課後は学校の図書室で勉強をしようという話になり、今に至る。


 勉強を始めて約1時間。 お互い少し集中力が切れてきた。


「鈴どうしたの?」


「いやね、公式は違うんだけど答えが合っているっていう、謎の現象が起こってるんだよ」


「見せてみ?」


「ここなんだけどねーーーーーーー」


 俺と鈴は小声で話をしながら会話をする。


 鈴が問題集を俺の方に寄せてきたから、2人で問題集を取り囲むようにしながら問題を見た。


「あ、ここの数字とここの数字が逆だよ」


「あ、本当だ。 でも、答えは合ってるんだから不思議だよね」


「数学ってそういうこと偶にあるよね」


「そうそう。 計算式は全然違うのに答えは合ってるってことあるよね〜あれに何回私救われたことか」


「俺も救われたな〜」


「あるよね〜」


 実は今日の勉強会は、以前行った模試の結果を参考にして行われている。


 模試で分かったことは、俺は□□高校『B』判定、鈴は□□高校『C』判定ということだ。


 塾の先生が言うには『B』判定は合格率60%、『C』判定は50%らしい。


 正直2人ともまだまだ安全圏には達していないで、こうして早めに勉強会をすることになったのだ。


「ん〜!! 学校終わってからも勉強って疲れるなー!」


 鈴が身体を伸びをしながらそんなことを言う。


 目の端には涙が少し溜まっていた。


 目はショボショボしていて少し眠たそうだ。


「まぁ、受験生ってこういうもんなんだよきっと。 ほどほどに頑張って、やる時はしっかりやるようにすればきっと大丈夫だよ」


「うへぇー陸くんは考え方が大人だなー」


 鈴が顎を机に乗せながら頬を膨らませる。


 なんだかゲーセンにあるぬいぐるみみたいだな。


「考え方が大人っていうよりも、ただただポジティブに考えてるだけだよ」


「ポジティブ?」


「うん。 受験からは逃げられないし、どうせ頑張るなら自分の限界近くまで頑張る方が得じゃない? 気持ち的にも楽になるし、自分の今の限界を知ることができるしさ」


「でも、それってしんどくない? 逃げたくならない?」


「そりゃあしんどいよ。 俺だって正直勉強したくないし、受験だってしたくない。 そういうことから逃げられるなら逃げたいけどさ、逃げられないじゃん? なら、少しでも良い方に進む為に俺は頑張りたいんだよ。 結局良い結果になろうが、悪い結果になろうが、その結果を出したのは自分だしね」


「ふーん……そっか。 なら、私も陸くん見習って頑張るかー」


「頑張ろうっか」


「うん」


 そんなことを話して、俺たちは勉強を再開しようとした。


 しかし、その前に俺は消しゴムを机の下に落としてしまい、拾う羽目になった。


 俺はしゃがんで机の下に潜る。


 そして、元の席に戻る為に頭を上げたその時、ある布が俺の視界へと入った。


 あ、あれはーーーーーーー


「ピ、ピンーーーーーーー!?」


 俺は鈴のパンツが見えたことに動揺してしまい、思いっきり頭を机にぶつけてしまった。


 ゴンッ!と辺りに鈍い音が響き渡る。


 それを聞いて鈴は慌てて机の下に潜り込み、俺の安否を確認してきた。


「だ、大丈夫陸くん!?」


「いててて……」


「良かった。 血とかは出てないみたい……ほら、ゆっくり机の下から出ようよ」


「う、うん」


 俺はゆっくり頭が当たらないようにしながら、机の下から出る。


 そして、こっちを見ていた他の生徒達に頭を下げた。


 ごめんなさい。 お騒がせしました。


 俺が頭を下げるとみんな興味を失ったのか、各々自由に過ごし始めた。


「ビックリした……急になにか言ったと思ったら頭ぶつけるんだもん」


「あはは……俺もぶつかる気はなかったんだよ」


 言えない。 鈴のピンク色のパンツを見て動揺したなんて言えない。


「なに言おうとしたの? ピンまでは、聞こえた、け、ど………………」


 鈴が俺に聞こうとすると、言葉が途切れ途切れになる。


 鈴は俺を見て、机の下を見て、椅子を見た後、自分のスカートをジッと見た。


 そして、さっきまでの自分の体勢、俺の体勢なども思い出し、どうやら答えに気づいてしまったようだった。


「〜〜〜〜ッ!! 陸くんのエッチッ!!」


「い、いででで」


 鈴は顔を真っ赤にしてスカートをぎゅっと握る。


 目尻には涙を溜めて、頬をリスのように膨らませながら、俺の手の甲をぎゅ〜とつねってきた。


「ふ、不可抗力なんだ……!」


「陸くんのエッチ! パンツ大好きマン! ヘンタイ!」


 俺と鈴は小声で話す。 俺が話すたびに鈴のつねる力は強くなった。


 結局、帰りに俺は鈴にジュースを奢るまで、鈴の機嫌は治らなかったのだった。

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