第99話 最高学年になって最初の陸上大会です。 ②

「陸くん来たよー!」


「おー鈴。 今日来てくれてありがとね!」


「来るのは当然だよ! だって彼氏が頑張るんなら、彼女の私が応援しないとダメでしょ!」


 鈴はニカッと白い歯を見せながら爽やかに笑う。


 いや〜他のカップル事情は知らないけど、彼氏の応援に彼女が来るってなかなか貴重じゃない?


 いつも以上に力が出るのは絶対だよ。


「ねぇねぇ。 私ってどの辺で応援した方がいいかな? うちの陸上部の近くで応援するのはちょっと恥ずかしいんだけど……」


「あっちの方はうちの陸上部とほぼ真反対の位置になるから、いるのがバレにくいと思うよ。 俺たちのいるスタンド側だと左側の奥がほとんど人がいなくて、日陰もあるから競技見やすいと思う」


「なら、移動もめんどくさいし、スタンドの左側にいるね」


「りょうかーい」


「陸くんが出る5000メートル競走って15時からだよね? 今13時30分だけど、時間とかは大丈夫なの?」


「14時25分が選手の集合時間だから、逆算して今からアップとか着替えをしようと思っているから、結構ギリギリかな」


「なら、これ今渡しとくね! 大したものじゃないけど、あったら良いなと思って!」


 鈴は自分のカバンから色々なものを出して渡してくれた。


 スポーツ飲料に汗拭きシート、塩飴etc……,


 その気持ちが俺は堪らなく嬉しかった。


「今日もらった物全部、俺持っていくね」


「でも、汗拭きシートとかは陸くんも持ってるんじゃないの?」


「持ってるけど、やっぱり鈴から貰った物の方が大事だし、『鈴から貰った』ってことで、テンションが上がると思うんだ」


 例え持っている物でも、彼女から同じ物を貰ったんなら、使いたいのは彼女から貰った物の方だ。


 それさえあれば俺は更に頑張れるような気がする。


「そっか……なら、この汗拭きシートを私だと思ってね」


「いや、それは違うでしょ!」


「アハハッ! 冗談だよ冗談!」


 鈴はコロコロと楽しそうに笑う。


 その笑顔を見ていると、俺も自然と笑顔になっていた。


「陸くん」


 鈴が俺に近づいてきて、両手で俺の手をギュ〜と握る。


 そして、俺の方を見て微笑みながらこう言ったのだった。


「頑張ってね! 私、ちゃんと見てるし、応援してるから!!」


「……おう!」


 俺は手を握り返す。


 そして、そろそろアップの時間が近づいてきたから、鈴とは一旦お別れをしたのだった。


 別れ際に、俺は首に掛けていた鈴から貰ったスポーツ用のネックレスを上に掲げる。


 それを見た鈴は、照れ臭そうに腕を上に上げてくれたのだった。

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