第100話 最高学年になって最初の陸上大会です。 ③

「陸先輩、ユウマ先輩頑張ってください!」


「アキラもこの後頑張れよ」


「気楽に走れよ。 力入れすぎるといつもの走りできないからな」


「うっす!」


 アキラが俺たちに声援を送ってくれる。


 今から始まる競技は5000メートル競走。


 今回は5000メートル競走は3つのグループに分かれていて、俺とユウマは1グループ目、アキラが2グループ目になっている。


 サポートしてくれるいつもの後輩達に加えて、アキラがこの場にいるんだ。


 特にいつもサポートしてくれている後輩達には、カッコいいところを見せてあげたい。


 きっと俺の県大会出場が決定したら、こいつらにとっても良い影響になると思うからだ。


「じゃあ、行ってくるね」


「絶対負けねぇ! 目指すわ1位だ!」


「「「ファイトっす!」」」


 俺とユウマはスタート位置へと向かう。


 俺の番号は若いのでトップ集団と同じところからスタートし、ユウマは2列目からスタートすることになっている。


 秋季大会では最初の位置取りに失敗して、結局順位を上げることができず、35人中、26位だった。


 でも、あの頃の俺とは違う。


 冬の時期に怪我をしたけど、心身共に強くなった。


 ライバルができて、切磋琢磨しあった。


 そして、とっても大事な彼女ができた。


 そんな彼女が応援に来てくれた。


 後輩達もスタンドから応援してくれているし、ライバルであるアキラはすぐそこで俺達の勇姿を見ている。


 こんだけの条件が揃っているんだ。


 ……俺は絶対、県大会に出場してみせる!!


『On your marks(オン・ユア・マークス)』


 アナウンスが聞こえる。 俺は頬を2.3回叩いてスタートの構えをとった。


 審判が持っているピストルに注目する。


 そして、パァン!という破裂音と共に、俺達は駆け出した。


 俺は最初の位置取りで良いところを取れるように走る。


 そして、10人ぐらいが固まっている先頭集団に見事入ることができた。


 この地区から県大会に出場できるのは上位12名ぐらいだ。


 とりあえずこのままこの集団にずっといることができたら、県大会にはほとんどの確率で進めるだろう。


 でも、稀に2グループの1位や2位がタイムで上位12名に入ってくることがあるから、この位置でいるのに胡座をかいてはいけない。


 ……前に出る!!


 俺はスピードを少し上げて順位をあげる。


 現在の順位は8位で、今走った距離は2キロ。


 このまま順位を下げずに少しずつ順位を上げていく。


 そして、ラスト1キロぐらいになったらドンドンペースをあげていって、最後の1周、400メートルで一気に勝負を仕掛ける……!


「ハァ……ハァ!!」


 息が苦しい。 気が抜いたら走るペースが無意識に下がりそうだ。


 でも、秋季大会の時とは違って調子は絶好調だし、気持ちが前を向いている。


 この集団にしがみつくことができているし、体力的にも追い越すことができそうだ。


「陸先輩ファイトっす! ユウマ先輩、喰らいついて!」


「ユウマくん! 腕が振れてないよ! 頑張れ!」


「気合い見せろ2人ともぉ!!」


「「「「「ゴーゴーレッゴーレッゴーりーく!! ゴーゴーレッゴーレッゴーゆーま!! 負けるなりーく! ファイトだゆーま!!」」」」」


 アキラや後輩達、ツバサやチアキの応援の声が聞こえる。


 ……しゃあ!! 気合いもう1回入れっぞ!!


 俺は3キロ過ぎた辺りで後輩から水を奪い取り、水分補給と身体を冷やす。


 その時、視界の隅で鈴が座りながら両手を合わせ、唇を噛み締めながら俺のことをジッと見ているのが見えた。


 ……よっしゃー!! 行くぞ俺ぇ!!


「ハァ……ハァ……ハァ……!!」


 周りの声援が少しずつ小さく聞こえてくる。


 汗は止まらず、身体中の穴から水分が出ているような感覚だった。


 今の順位は7位で残り1キロ。 一位とは150メートルぐらいの差だ。


「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ!!」


 2人抜かして1人にまた抜かれた。


 そして、抜いた1人をまた抜かし返した。


 そんなことをしていると、『カンカンカンカンッッッ!』と鐘の甲高い音が辺りにこだました。


 1位が残り1周となったのだ。


 1位との距離は100メートルぐらい。 現在の順位は5位。


 どうせなら3位になって表彰台に立ちたい!!


「ハァハァハァハァ!!」


 息遣いが更に激しくなる。 周りの選手も追いつかれまい、追い越そうと気迫を込めて走っていた。


 残り200メートル。 すぐ目の前には4位の選手、その少し先には3位の選手がいる。


 ここが勝負どころだ!! 腕が引きちぎれてもいい!! 頑張れ俺ぇ!!


「陸くん!! 頑張れぇぇぇぇ!!!」


 視界の隅で鈴が立ち上がりながら大きな声を張り上げた。


 それを聞いて俺は一気にスピードを上げる。


 4位の選手をすぐに抜いた。


 そして、残り100メートルというところで、3位の選手と並走していた。


「ハァハァハァハァハァハァ!!」


 お互いの腕がガチガチにぶつかり合う。


 お互いに一歩も引かない。


 そして、ほぼ同時のタイミングでゴールしたのだった。


「ハァハァ……どっち!?」


 俺はゴールしていつもならレーンから外れてスピードを緩めるところを、レーンから外れて急ブレーキをかけてバッと後ろに振り返る。


 電光掲示板には『4位 春名陸。 △△中。 〇〇分○○秒○○』と表示されていた。


 ……くそっ!! 抜けなかった!!


「ハァハァハァ……おつかれ様」


 俺が膝に手を置きながら呼吸を整えていると、3位になった選手が話しかけてくる。


 あれ? 走っている時は気づかなかったけどこの人……。


「あんたは知らないかも知れないけど、俺とあんたって結構いつも競ってんだよね……で、去年の大会ではあんたが3位で、俺が4位だったんだ……へへっ。 リベンジ成功だぜ!」


 そうだ。 この選手は去年の大会で4位だった選手だ! 秋季大会でも同じグループにいた選手!


「くそっ……やり返されたか……」


「ははっ……負けたのが悔しかったからな。 勝てて良かったぜ……でも、良い勝負だったな」


 そう言って3位になった選手は握手を求めてくる。


 俺は呼吸を整えて、握手を返したのだった。


「県大会では絶対負けないから……! そして、最後の大会では俺が勝ってやるからな……!」


「へへ……上等だよゴラァ……!!」


 俺達は握手を交わした後、トラックから出て一緒にダウンをした。


 そこで少し話をして、連絡先を交換したのだった。


 その後、俺は陸上部のみんなに盛大に祝われて、鈴からもおめでとう!と声を掛けられた後、思いっきり抱きしめられた。


 そして、大会が終わる間際にあった表彰式をみんなで見たのだった。


 表彰台に立っている3位の選手を見る。


 とても良い笑顔だ。


 でも、次に表彰台に立つのは俺だ……!!


 俺は闘争心をメラメラと燃え上がらせる。


 こうして、俺の最高学年最初の陸上大会は幕を閉じたのだった。










 春名陸。 5000メートル競走4位。 県大会出場決定。










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祝100話突破!

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