第93話 お家デートをしました。 ①

「お邪魔しまーす」


「どうぞ〜」


 鈴が靴を脱いでから玄関を上がる。


 ある日の休日。 俺の家に鈴が遊びに来た。


 所謂お家デートというやつだ。


 春休みにデートは2回したんだけど、今回のお家デートは初めてだ。


 鈴が俺の家に行きたいって言ったのが始まりだったりする。


「ささ、上がって上がって」


「う、うん!」


 鈴は緊張した表情で俺についてくる。


 そういう俺も緊張していて変な汗が出ていた。


 今の春名家には鈴と俺しかいない。


 母さんと父さんはドライブに出かけているのだ。


 帰る時間は聞いているから、それまでこの家で俺は鈴と2人っきり。


 最初は家に親がいるからお家デートは難しい、もしバレたら恥ずかしいって話したんだけど、鈴が『なら、お母さん達がいない日はダメ?』と、瞳をうるうるさせながら聞いてきたので、普段は聞かない両親の予定を聞いて、今日というお家デートにピッタリな日を探したのだ。


 いや〜なんとか怪しまれずに探すことができて良かった。


 母さんに追及された時、咄嗟に『ユウマ達が遊びに来るから』って言えたあの時の俺を褒めてあげたい。


「ここが俺の部屋だよ」


「お邪魔しまーす!!」


 鈴はそう言うと、部屋に入ってキョロキョロと辺りを見渡す。


 俺はそんな鈴をドアのところから見ていた。


 凄いな……いつもの部屋に鈴、いや、彼女が入るだけでこの部屋が異世界の様に感じる。


 俺の部屋なのに、なんだか入るのに躊躇してしまった。


「とりあえずそこに座ってよ。 俺は飲み物とお菓子持ってくるから」


 俺は鈴に机の近くにあるリクライニング座椅子に座る様に声を掛けて、冷蔵庫がある1階へと向かった。


 そして、お盆の上にお菓子と飲み物、コップを置いて部屋に戻ると、そこには目を見張る光景が広がっていた。


「す、鈴……?」


「いや、違うんだよ!? 決してエッチな本があったりしないかな〜って探していたわけではないんだよ!?」


「鈴……」


「ほ、本当だよ!?」


 ドアを開けるとそこには四つん這いになって、ベットの下に手を伸ばす鈴がいた。


 お尻をフリフリさせながら一生懸命手を伸ばしている。


 チェックのロングスカートがフリフリと揺れていて、床に押しつぶされた胸が形を変えていた。


 ……なにしてるんだ鈴。 その姿はあまりにもセンシティブすぎないか? 


「エッチな本なんて持ってないから」


「……本当?」


「本当本当」


 今時エッチな本を持ってる奴なんて少数派の筈だ。


 とりあえず俺の周りで持っているやつはいない。


 だから、探しても無駄だよ鈴。


「ちぇ〜漫画とかならよくあるパターンなのにぃ」


「漫画は漫画。 現実は現実だよ」


「やっぱりそうなのか〜」


 鈴は姿勢を直し、俺は机にお盆を置いてクッションへと座る。


 そして、コップに飲み物を注ぎ、お菓子の袋を開けてから、お家デートが始まったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る