第92話 同じ塾で隣の席の女の子と、進路について話しました。
「ごめん。 部活長くなった」
「全然大丈夫だよ〜」
「んじゃあ、帰ろっか」
「うん!!」
ある日の部活終わり。
俺と鈴は普段人が来ない部室棟の裏で待ち合わせをしていた。
空は段々と茜色になってきていて、そこら中から部活が終わった生徒達の話し声が聞こえる。
案外部室の中だから聞こえないって思っていたことが、外に漏れていることあるんだよな。
それで好きな人がバレるパターンを何個か見てきた。
……俺、部室でそういう話しなくて良かったな。
「陸くんはさ、高校どこにするのか決めてるの?」
校門を出て少しすると鈴が聞いてくる。
高校か……今のところ候補に入れてる高校は3つだな。
「俺は完璧には決めてないけど、候補は3つあるよ」
「え、どこどこ?」
「○✖︎高校と△△高校、あとは□□高校かな」
まず1つ目は以前ツバサが言っていた○✖︎高校だ。
この辺の中学生が一番通う高校で、地味に偏差値が平均よりちょっと上。
でも、このまま学力をキープし続けることが出来れば、十分合格範囲だろうな。
陸上部は可もなく不可もないって感じだ。
2つ目の△△高校は偏差値が高くて陸上部もそこそこ強い。
今の学力だと合格の可能性は4割ぐらいだから、偏差値を結構上げる必要があるな。
ネックなのは電車の路線が近くになくて、通学の方法はバスか自転車。
バスは本数がそんなにないし、自転車は家からだと40分くらいかかるから、割と遠いんだよな。
3つ目の□□高校は、○✖︎高校と△△高校の間ぐらいの偏差値だ。
今の学力だと合格の可能性は6割ぐらいだから、少し偏差値を上げる必要がある。
陸上部はあまり強くないけど、トレーニング施設などの環境は整っている。
陸上部の監督が現役時代凄い選手だったことは、うちの陸上部の顧問に確認済みだ。
陸上がそこそこ強くて、俺の学力にあった高校に行きたいと前は思っていたけど、練習環境と指導者は整っているから、十分陸上面での俺の希望はこの高校で叶えることができると思う。
後、最近できた学校だから全体的に綺麗で、距離も電車で10分ぐらいだからそんなに遠くない。
家から駅まで行く時間、駅から学校まで行く時間を入れても30分かからないから、そんなに遠くないっていうのは良い点だと思う。
後、あまり強くない陸上部をもし自分の力で強くすることができれば……っていう、男の子憧れ? 夢?みたいなのが、叶えられそうなのも個人的には捨てがたいんだよな。
まぁ、俺の中での希望は1番が□□高校、同率で○✖︎高校、△△高校って感じだ。
「やっぱり陸くんも○✖︎高校は候補入れてるんだね。 まぁ、この辺の中学生はとりあえず○✖︎高校目指すよね」
「鈴は高校どこにするか決めてるの?」
「うーん……私も完璧には決めてなくて、今の候補は2つぐらいかな」
「どこなの?」
「○✖︎高校と△□女学院」
○✖︎高校はよく知っているけど、△□女学院か……。
女子校ってことは知ってるし、名前も分かるけど、どこにあるのかとか、どれくらいの偏差値なのかとかは知らないなぁ。
まあ、俺にとっては絶対入ることができない無縁な高校だな。
「○✖︎高校はとりあえずみんな行きそうだし、家から近いから候補にあげたの。 △□女学院は制服が可愛いし、女子校っていうのに少し興味があるから候補にあげたって感じかな。 でも、2校とも私の偏差値だとちょっと厳しいから、勉強頑張らないといけないけど……」
「まあ、まだ4月だし勉強しながら夏休み前ぐらいにはお互い進路決めとこうよ」
「そうだね」
俺達は少し遠回りをしながら手を繋いで帰る。
時々、こうやって一緒に帰っているけど、全然慣れなくていつも心臓がドキドキしてしまう。
もしかして俺だけなのかな?
「陸くんは○✖︎高校と△△高校、□□高校かぁ……」
そんなことを思っていると、鈴がボソッと呟く。
俺はどうしたんだろう?と思いながら鈴の方を見ると、鈴は少し頬を赤くしながら俺の方を見ていた。
ど、どうしたんだろう……?
「実はさ私の中に1つ、憧れがあるんだよね」
「憧れ……?」
「そう。 憧れ……それはね……彼氏と同じ高校に入学すること」
「……!!」
「そうすればまた3年一緒に居られるし、彼氏が他の女の子に浮気する可能性も減るでしょ? だから、陸くんが△△高校や□□高校を目指すって言うなら、私、頑張りたいなって思ってるんだ」
「鈴……」
「あ、アハハっ……ち、ちょっと重いかな? いや、かなり重いよね…………」
鈴は言い終わると少し顔を伏せる。
恋人と同じ高校に行きたい。 それはかなりのカップルが同じことを思うはずだ。
でも、恋人の為に高校を選ぶっていうのは、人によっては重たいと思われても仕方がない。
鈴も思うところがあるんだと思う。 きっと俺が予想していない葛藤なんかもあるんだと思う。
でも——————————————
「俺はさ、鈴が俺の為に一緒の高校に行きたいって決めたんなら、絶対嬉しいし、喜ぶよ。 気持ち悪いとかの悪い感情は絶対持たない。 これは断言できるよ。 だから、鈴は自分の考えや思いをしっかり大事にして、決めてほしい」
俺がそう言うと、鈴の手を握る力がギュッと強くなった。
俺はそれに対して何も言わずに、そっと優しく手を握り返したのだった。
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