第84話 同じ塾で隣の席の女の子の誕生日に、デートをします。 ⑦

「ふぅ……今日はいっぱい遊んだね!」


 ゴーカートが終わった頃には太陽が沈み初め、徐々に空はオレンジ色になっていた。


 周りを見れば、家族連れなどが少しずつ帰路に就く。


 後少しすれば夕食時だ。 このまま帰り道で外食でもするのかな?


 俺はそんなことを思いながら、家族連れを見ていた。


「陸くん?」


 俺がそっちの方を見ていると、鈴が話しかけてくる。


 おっと。 意識がいき過ぎてたな。


「いや〜家族連れとかが帰り始めたから、このまま外食でもするのかな〜って思って」


「あ〜確かにするのかもしれないね。 こういうところに来て、帰り道で外食するのも思い出になるよね」


「鈴はなにか思い出あるの?」


「私は小さい頃、遊園地の帰りで食べたハンバーグがとっても美味しかったなぁ……どこにでもあるファミレスのハンバーグだったんだけど、すっごく美味しかったの覚えてるよ。 陸くんは?」


「俺は遊園地の帰りに寄ったサービスエリアで、初めて食べ物自販機で焼きおにぎり買った時は感動したなぁ……未来だっ!って思ったもん」


「ああいうのって高いけど、買いたくなるよね」


「なかなか街中では見れないからなぁ。 見つけただけでテンションが上がるよね」


 俺たちはそんなことを話しながら、園内を少し歩く。


 来た頃にはいっぱいいた人も疎らになっていた。


「ねぇ、鈴」


「ん? なぁに?」


 俺が声を掛けると、鈴は俺のことを見る。


 普段から見ている鈴の可愛い顔。


 でも、鈴の顔を見るのが怖かった。


 なぜなら俺は今からあるアトラクションに誘って、鈴に告白する予定だからだ。


 心臓はバクバクいっていて飛び出しそうだし、手汗は止まらない。


 歩いているから見える景色が変わるのは普通なのに、気持ちがフワフワしていて、本当に自分が歩いているのか分からなくなるぐらいだった。


「……? おーい陸くん?」


 俺が喋らなくなったのが不思議なのか、鈴は俺の顔の前で手を振る。


 鈴の大きな真ん丸な瞳には、俺が映っていた。


「あ、ごめん。 ちょっとボッーとしてた」


「大丈夫? 今日いっぱいアトラクション乗ったから、疲れちゃったのかもしれないね」


「んー……そうかも」


 とりあえず鈴の言葉に賛同したけど、俺は分かっている。


 単純に告白するのが怖くて、勇気がでないのだ。


 このまま良い雰囲気のまま、デートを終わらせてしまいたい気持ちがどこかにある。


 気持ちは後ろ向きになり、歩くスピードも少し落ちた。


 でも、そんな時、俺はカバンの中にあるプレゼントのことを思い出し、触った。


 すると、今まで頑張ってきたことや相談に乗ってくれたみんなのことを思い出した。


 思い出すと逃げていいのか? 男を見せなくていいのか?という気持ちになった。


 俺は少し前を歩いている鈴の後ろ姿を見る。


 立ち止まってその後ろ姿を見て、やっと俺は決心したのだった。


「ねぇ、鈴」


「どうしたの?」


 俺が声を掛けると、鈴は俺の方に振り返る。


 そして、俺は鈴の顔をまっすぐ見ながら伝えるのだった。







「——————————————最後に観覧車乗ろうよ」

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