第31話 陸上大会に出ました。 ②

 係員の人についていき、全選手が集まった。


 俺は足首を回し、その場で2.3回軽くジャンプする。


 うん。 アップもしっかりしたし、この大会の為に苦手な筋トレも頑張り、自主練も重ねてきた。


 前までの自分とは違うぞ俺。 頑張れ俺。


『On your marks(オン・ユア・マークス)』


 そんなことを思っていると合図が出されたので、俺はスタートの姿勢を取る。


 すると、審判が全選手の動きを見て、ピストルを空の方に向けた。


 そして、少ししてパァン!というピストルの音が鳴ると同時に選手たちが走り出した。


 俺は最初の位置取りでいいところをとるために走る。


 そして、なんとかトップ集団に紛れ込むことができた。


 まだ、競技は始まったばっかりだ。


 無理に一番前に出ようとしても、多くの風を受けてしまい、体力を消耗してしまう。


 だからといって後ろの位置にいるとラストスパートの段階で出遅れてしまう。


 だから、俺は4.5番目の位置で走っていた。


「はぁはぁはぁ!」


 やっぱりトップ集団は速い。


 前まではついて行くことができず、2キロぐらいからドンドン引き離されていただろう。


 でも、今は違う。 トップ集団についていくことができるし、まだ余力もある。


 このまま走れば俺にもチャンスがあるはずだ。


「はぁはぁはぁ!」


 俺は懸命に走る。


 腕を振り、脚を動かす。


 周りからの声援を糧にとにかく走る。


 強豪校の応援に威圧され、少しひるみそうになったけど、部活の仲間の声援が力になった。


「ついてけ陸! 前に離されんな!」


「陸先輩! ユウマ先輩ファイトです!」


「いけいけー陸! 頑張れー陸! 負けるなーユウマ! ファイトだーユウマ!」


 強豪校の応援に比べたら声援は小さかった。


 でも、しっかり声援は聞こえていたし、みんなの表情は見えていた。


「陸先輩!」


 走り始めて中盤。


 みんな少しずつ疲れてきて、上位グループと下位グループが徐々に別れてきた。


 俺はまだ上位グループにいる。


 疲れてきたけど、まだついていくことができていた。


「はぁはぁはぁ…!」


 俺は水分補給と身体を冷やすために少しレーンから離れる。


 そして、後輩が持っていたペットボトルを強引に取り、走りながら身体に水をかけ、水分補給をした。


 用がなくなったペットボトルを邪魔にならないところに投げる。


 火照っていた身体に水分がきて、少し気持ちよくなった。


「はぁはぁはぁ…!」


 息遣いが激しくなる。


 ついに最後尾の選手達を抜いた。


「はぁはぁはぁ…!」


 …1つ前の選手が明らかにスピードダウンしていた。


 残りはもう1キロを切っている。


 この選手のペースについていったらドンドン前に離されるだろう。


 ここは少し気合を入れて抜かすか……!


「はぁはぁはぁ…!」


 俺はスピードをあげて外側から入り込む。


 すると、俺の後ろについていた二人も一緒についてきた。


 くそっ……順位は1つ上がったけど、いつ落ちても不思議じゃねぇな。


 俺の今の順位は3位。


 1位と2位の選手は目と鼻の先にいるけど、なかなかおいつけなかった。


『カンカンカンカンッッッ!』


 1位の人が走り抜けると最後の1周を知らせる鐘が鳴る。


 残りは400メートル。


 周りの選手のスピードがあがるのが分かった。


「はぁはぁはぁ…………!」


 走る。 走る。 走る。


 もう水で濡れた身体は乾いていた。


 心臓が今まで感じたことがないぐらい脈打っていた。


 とても辛い。


 片腕が痺れてきた。


 でも、負けたくなかった。 諦めたくなかった。


「はぁはぁはぁ…………!!」


 残り200メートル。


 1位と2位の選手のスピードがまたあがった。


 4位と5位の選手の鬼気迫る雰囲気と、足音が速くなったのも分かった。


 ここで、ここで負けるわけにはいかないっっっ!!


「はぁはぁはぁ……………!!!!」


 残り100メートル。


 後は直線だけだ。


 走る。 走る。 走る。


 ラストスパートだからみんな最後の力を振り絞っている。


 なんとか前に出ようと外側からしかけてくるから、腕が何回か当たった。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 俺の前にいる選手たちはもうゴールしてしまった。


 なら、ならせめて3位にはなる!! ここは譲らない!!! 譲れない!!!


 そんな想いを抱きながら、俺は胸部を突き出す。


 俺の胸にはゴールすると同時に、ゴールテープが当たったのが分かった。


「ぜぇ! ぜぇ! ぜぇ!」


 俺は走り抜けてレーンから外れ、少しずつスピードを緩める。


 そして、身体を止めて膝に手を置きながら息を整えた。


「うらぁぁ!!」


 俺が息を整えていると、ユウマの雄叫びが聞こえた。


 ユウマゴールしたのか……。


 今回は俺の勝ちだな。


 俺はそんなことを思いながら顔をあげ、電光掲示板を見る。


 そこには『3位 春名陸。 △△中。 〇〇分○○秒○○』と表示されていた。


 ……俺の名前が電光掲示板に表示されている……!


 しかも、3位という好成績で表示されている……!


「……しゃあ!!」


 俺は成績が上がったことが嬉しくて、小さな声で小さくガッツポーズをとった。


 タイム的には予選を突破することは難しいだろうけど、順位は上がったし、秋季大会では1グループスタートの可能性が高くなった。


 秋季大会では3年生がいないから俺達2年生が主役になるし、秋季大会までの約2ヶ月みっちり練習すれば更にタイムも伸びるはずだ。


「……次はもっと速くなろう」


 俺は小さく呟きながら、ユウマ達と合流するのだった。

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