第20話 どうやら俺は、同じ塾で隣の席の女の子が好きなようです。


「おい春名。 先輩に向かって“おい!”だの、“あんた”だの生意気言ってんじゃねーよ」


「ず、ずいまぜん」


 俺は先輩に両頬を抑えられる。


 口調とやっていることは過激だけど、力は入っていない。


 あ、でも両頬をムニムニするのはやめてほしい。 唇が数字の8みたいになってるから。


「分かればいいんだよ。 で、話戻すけどよ、俺部活前に校舎裏に松田を呼んで告白したんだよ」


「は、はい」


「そしたらよぉ、『気持ちは嬉しいけど付き合えません』って言われたは」


「そうなんっすか」


「でも、諦めずに口説こうと思ったんだよ。 でも、松田の申し訳なさそうな顔を見るとさぁ、そんな気もなくなっちまったわ」


「そうなんっすね……」


「あ、でも彼氏がいるのかは聞いたぞ。 松田彼氏いないって言ってたは。 あと、今まで告白はされたけど恋人いたことないってよ。 聞いたら答えてくれたは」


「そうなんっすか……でも、なんでそれを俺に教えてくれるんですか?」


 俺が聞くと先輩は呆れた顔を見せた。 


 な、なんだ?


「だってお前、松田のこと好きだろ?」


「……えぇぇぇ!?」


「なに驚いてんだよ……もしかして、自覚なしか?」


 俺が驚き、顔を赤くしていると、先輩は両手を顔の横にもってきてヤレヤレとポーズを取った。


「どうして俺が松田のこと好きだって思ったんっすか?」


「松田が気になるって言った時、お前無意識だったのかもしれないけど、言葉が強くなってたぜ。 俺に対しては?なんて言ったのは初めてだった」


「確かにそうっすね……」


「あと、俺が話しているうちにどんどん目つきはきつくなってくるし、雰囲気も怖い感じになってたからな」


「……」


「で、最後に言葉強くしながら俺に告白するのか聞いてきただろ? こんだけのことがあったらこいつ松田のこと好きなんだって、大抵のやつがわかるっーの」


 先輩は声に出しながら笑う。 ニヤニヤしている先輩の顔を殴ってやりたいと思った。


「春名が松田のこと好きってことがこの時に分かったから、俺は急いで告白したんだよ。 お前みたいな奴らが先に告白しちゃうと困るからな。 ま、結果は残念だったけどよぉ」


「残念でしたね」


「お前、言葉と表情全然あってねーぞ」


 俺は先輩にヘッドロックされる。


 痛いけど、少しでも先輩に反撃したかったから、残念でしたねと言ったことには後悔していない。


「……俺は振られた。 でも、まだお前は振られてないだろ? しかも、一緒にキツイ陸上部の練習を1年ちょっと頑張ってきた可愛い後輩だ。 情が沸くし、情報があるなら教えてやりたいって思ったんだよ」


「先輩……」


 俺、先輩に残念でしたねって言ったこと、速攻で後悔しましたよ。 先輩、かっこいいっす! 


 俺も先輩みたいなかっこいい男になりたいっす!


「まあ俺は新しい恋を探すからよ、お前も頑張れや!!」


 先輩は俺の肩に手を置いて励ました後、用事があるからと言って去っていた。


 俺はその後ろ姿に向けて深々と頭を下げたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る