第19話 相合傘しているところを、部活の先輩に見られてました。

「おい春名。 お前、松田と付き合ってんのか?」


「……はい?」


 松田さんと相合傘をして一緒に帰った日から数日が経った。


 俺は今、学校で陸上部の朝練に参加している。


 今から走ろうかと思ってストレッチをしていた時に、先輩に話しかけられた。


 ……なんで俺と松田さんが付き合っているか聞かれたんだろう。


「いや、だから松田と付き合ってんのか俺は聞いてんだよ」


 俺が不思議そうに見ていると、先輩はイライラした様子で聞いてくる。


 うわっ……怖いな。


 先輩ガタイ良いし、迫力あるから怖いんだよな。


 でも、顔はいいし性格だって男気があって良い先輩だ。 学校でモテる男ランキングでも上位には入ってくるだろう。


 そんな人がなんで今日はこんなにイライラしているんだろ?


「いや、松田とは付き合ってないっすけど……」


「そうか……じゃあ、なんでこの前松田と相合傘してたんだお前? なんか良い雰囲気に見えたけどよぉ」


「うぇぇぇ!?」


 先輩に相合傘してるところ見られたのか!? なんか恥ずかしいな。


「あれは傘がないっていうから、塾長の提案で俺の傘に入っただけっすよ」


「塾長? お前松田と同じ塾なのか?」


「そうですけど……」


「よく話すのか?」


「まぁ同じ授業を受けているからよく話しますね」


「……そうか」


 俺がそう言うと、先輩は顎の下に手を置いて考え始める。


 どうしたんだ先輩? なんで俺と松田さんの関係をこんなに聞くんだ?


 まるで好きな女の子周りの情報を集めているようにみえるけど……。


 でも、先輩には可愛い同い年の彼女がいたはずだ。


 ……そういえばその彼女さん、どことなく松田さんに似てたな。


 背が低くて小動物みたいだったし、明るい人だったな……。


「俺さぁ、最近松田のこと気になってんだよ」


「へ!? どういうことっすか!?」


「だから気になってんだって。 一人の異性として」


「は? 先輩彼女さんいましたよね? それってヤバいんじゃないっすか?」


 浮気になるんじゃない?


「お前いつの話してんだよ。 その彼女とは随分前に別れたっーの。 今はフリーだよ、フリー」


「そうなんっすか……」


「で、彼女いなくて寂しい時に、松田を見かけてなぁ。 噂では聞いてたんだけど、俺の好みドストレートなんだよあいつ」


「そ、そうなんっすか」


「で、どうやらあいつ彼氏いないらしいじゃねぇか。 これはチャンスなんじゃね?っと思っていたら、お前と相合傘しているのを見かけたんだよ」


「……」


「でも、どうやら恋人関係ではないみたいだな。 流石に彼氏持ちに告る勇気は俺にはないからよぉ」


 そう言ってワハハッと笑い始める先輩。


 対して俺の中には苛立ちや不安などの暗い感情が湧きあがり、渦巻いていた。


「じゃあ、俺が別に松田に告白しても問題はねーな。 春名、変なこと聞いて悪かったな」


 先輩はそう言って立ち去ろうとする。


 その背中に向けて、俺は質問をするのだった。


「待ってくださいよ先輩!! 本当に松田に告白するつもりなんっすか!?」


「おう。 そのつもりだ」


「……ツ!」


 先輩のはっきりとした言葉におもわずひるんでしまう。


 俺は松田さんの彼氏ではない。


 先輩の告白を止める権利はないし、この暗い感情を先輩に向けるのも間違っている。


 でも、理屈では分かっていてもこの気持ちは止まりそうになかった。


「話はそれで終わりか? じゃあ、時間も押してるし朝練に戻ろうぜ」


「…………うっす」


 俺は悶々としながら先輩の数歩後を歩く。


 結局、この後の朝練と学校生活は心ここにあらず、ユウマたちに大丈夫か?と心配されるのだった。


 でも、その状態は長く続かなかった。


 なぜなら、部活終わりに聞いた先輩の言葉に度肝を抜かれたからだ。


「あ、春名。 俺部活前に松田に告ったんだけど、振られたわ」


「え、は、ちょっ! あんたなにしてんのぉ!!??」

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