第13話 同じ塾で隣の席の女の子から、手作りお菓子を貰えることになった。

「松田さん、こんにちは」


「ん? あ、春名くんこんにちは。 春名くんは……本返しに行くの?」


「そうだよ。 松田さんは?」


「私? 私はお菓子作りの本借りたの。 女子力を上げたくてねぇ」


 ある日の昼休み。


 俺は借りていた本を片手に図書室に向かっていると、反対側から本を持った松田さんが歩いてきた。


 きっと松田さんは歩いてきた方向から考えて、図書室からの帰りなんだろうな。


「お菓子の本借りて女子力上げたいってことは、お菓子作りをするの?」


「そのつもり。 でも、やったことないから不安なんだぁ。 とりあえず、しっかり分量とかは守って作るつもり」


「そうなんだ。 頑張ってね」


「うん。 出来たら春名くんにも分けてあげようか?」


 俺は松田さんの提案に勢いよく頷く。 しまった。 考えるよりも先に体が動いてしまった!


 俺は思わず顔をそらして、少しずつ赤くなっている顔を見られないようにする。


 すると、松田さんはきょとんとしていた顔から一転して、口元を隠して上品に笑った。


「ふふふ……そうやって素直に頷くなんて春名くん可愛いね!」


「か、可愛い!?」


 可愛いなんて久しぶりに言われた気がする。


 小さい頃はよく言われてたけど、まさか中学生になってまで言われるとは思わなかった。


 しかも、同い年の女の子に。 て、照れるなおい。


「どうせならかっこいいの方が良かった……」


「さっきのやりとりでかっこいい要素なんてなかったじゃん」


「そうだけどさー」


「ふふっ。 でも、すぐに女の子からのお菓子欲しいって頷いたのは男の子らしいかも。 うん! かっこいいよ!」


「……松田さんからかってるでしょ」


「アハハッ! でも、すぐに頷いたのは嬉しかったよ。 ありがとね」


「……どういたしまして」


 まさか松田さんにからかわれることになるとは。


 ここは話題を変えよう。


「そういえば、松田さんなに作るとか決めたの?」


「今のところはクッキーとか簡単なケーキ作りたいなって思ってるんだ。 ほら、このページとこのページ見てよ」


 そう言って松田さんは本を開きながら俺に近づいてくる。 


 確かに材料や道具も少ないし、工程も少なくて分かりやすいな。


「お菓子作りってもっと道具いっぱい使ったり、工程とか長いんだと思ってた」


「本格的なのは多分そうなんだと思うよ。 でも、わたしは初心者だから簡単そうなのを選んだの」


 松田さんは俺に本の表紙を見せてくれる。


 そこには『初心者でも簡単! ラクチンであなたはきっとお菓子作りが好きになる!』と書いてあった。


 へぇ~図書室にこんな本があったのか。 気が向いたら見てみるかな。


「あ、そろそろ返しに行かないと昼休み終わっちゃうね」


「本当だ」


 ここには時計ないけど、けっこう時間が経った気がする。


 返却日も今日までだし、早く返しに行かないとな。


「じゃあね春名くん。 あんまり期待しないで待っててね~!」


 松田さんはそう言って、自分の教室へと戻って行く。


 松田さんは期待しないでって言ってたけど、どうしても期待してしまう。


 だって、初めて女の子から手作りお菓子を貰えるかもしれないんだよ?


 そりゃ期待もするし、ドキドキもするよ。


 俺はどんなお菓子を貰えるのかワクワクしながら図書室へと向かうのだった。

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