第12話 部活前に雨が降ると、部活中止を期待する。
「ここはこうやるんだ。 注意点としてはな————」
先生の説明の声と少しの雨の音が聞こえる六時間目。
周りを見てみると舟をこいでいる男子や真剣に話を聞いている女子、ペン回しに夢中になっている男子などが各々のスタイルでみんな授業を受けていた。
「ここの答えをえ~と…阿部、答えなさい」
「……」
「……起きなさい」
「……え、あはい。 え、え~と……」
「気持ちは分かるがきちんと起きとくようにな」
「ごめんなさい……」
教科書を立ててその陰で寝ていたであろう阿部さんが先生に注意される。
今のやりとりで寝ていたであろう数人が目を覚ましたのが分かった。
ユウマの奴、袖で口元を拭いてやがる。 涎でも垂らしたのか?
ツバサは……まだ寝てるなあれは。 すごい神経しているな。
チアキは……あいつ教科書を立てて読んでるふりして、小説読んでるな。 すごい度胸だ。
俺は教科書に落書きをしながら外を見る。
空は暗く、灰色の雲が視界いっぱいに広がっていた。
雨も昼休みぐらいから降り始め、木々を濡らしている。
もしかしたら、もう水たまりができるぐらいには雨が降ったかもしれないな。
よしよし……この調子で雨よ降れ。
むしろもっと強くなっていいんだよ?
このままいけば部活は中止、もしくは室内練習になるからな。
俺はシャーペンを改造しながらそんなことを思う。
最高なのは部活が中止になることだ。
なったら速攻で家に帰ってゲームや動画鑑賞がたくさんできる。
室内練習になるのも嬉しいな。
筋トレは嫌だけど、文化系の部活の様子を見れるのは個人的に好きだ。 特に吹奏楽部の演奏とか聞けたら更に嬉しい。
一番嬉しくないのはここで雨が止んで、ぐちゃぐちゃなグラウンドで練習することだ。
部活が中止になるかもという期待感からの、部活があるのは気持ち的にしんどい。
しかも、グラウンドぐちゃぐちゃだから絶対どこか汚れる。
特にランニングシューズとジャージの裾が汚れるだろうな。 洗うのは母さんだけど、道具が汚れるのは嫌だ。
せめて、せめて部活があっても室内練習にしてくれ……!
「じゃあここの問題を春名! 答えてくれ!」
俺が外を見て願っていると、聞こえてくるのは先生の声。
え、答えろってどの問題? 俺は急いで教科書に目を通す。
しかし、問題よりも自分で書いた落書きに意識がいってしまう。
うわ……美的センスもくそもないな。
「おいおい阿部に続いて春名もか? 問3の答えだよ問3」
「え、えっと……」
やばい。 問3の答え普通に分かんないんだけど。
「……すいません。 分かりません」
「お前は起きてたから答えてくれると思ったんだけどなぁ。 起きてても聞いてないなら意味ないから、ちゃんと聞いとくように。 いいな?」
「はい!」
確かに俺がこの授業でしたことって落書きとシャーペン改造、神に祈っただけだな。
……うん。 俺は授業中になにやってんだろ。 気を取り直して頑張るか!
俺は教科書の落書きを消して、先生の大事と言った文章にマーカーで印をつけていく。
そして、六時間目は終わったのだった。
ちなみに部活は室内練習になった。
その時、偶然帰ろうとしていた松田さんに「頑張ってね!」と笑顔で手を振られたことにより、俺はユウマたちがびっくりするぐらい筋トレをするのだった。
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