第9話 図書館デート? ①
「おまたせー! ごめん待たせっちゃったね!」
「うんうん。 大丈夫大丈夫」
少し息を切らせながら走ってくる松田さんに伝える。 ただいまの時刻は12時55分。 集合時間の5分前だ。
「13時集合だから、そんなに急いで走ってこなくてもよかったのに」
「いやー間に合うか分かんなかったんだよ。 一応、頑張ったから5分前にはついたけど、頑張らなかったら多分時間過ぎてたよ」
「へぇ~そうだったんだ」
そんなことを話しながら俺は松田さんを見る。 今日の松田さんは私服姿だ。 塾の時に何回か見たことはあるけど、やっぱり女の子の私服を見るのは新鮮だな。
……ここは服装を褒めた方がいいんだろうか? いや、でも俺に褒められて嬉しいか? どうしたらいいんだ?
「?? どうしたの春名くん? はやく図書館入ろうよ」
松田さんは急に黙った俺を見て不思議そうな顔をしながら、図書館の入り口の方に向かっていく。
あ、どうしよう。 多分、ここで言えなかったら今日はもう言えないような気がする。……ええい、もうどうにでもなれ! 多分嫌われてはないだろうから、服装褒めても引かれることはないだろ!
「松田さん! 服似合ってて可愛いね!」
緊張からか、自分の声がいつもより高くなっていることが分かる。 あぁもうなんでここで声が高くなっちゃうんだ!
「え、本当!? 男の子にそう言われたの初めてだよ。 やった嬉しいなぁ!」
俺の言葉を聞いて松田さんは笑顔を咲かせる。 もうニッコニコだ。
良かった。 喜んでくれてる。 俺はホッとすると同時に、なんともいえない充実感に満たされた。 勇気だしておいてよかった……!!
「じゃあ、図書館入ろうか」
「うん!」
俺と松田さんは二人とも上機嫌で図書館へと入る。 今日は土曜日だからか、いつもより人が多かった。
「へぇ~図書館ってこんなに人がいるんだ」
「土曜日だし、多分学生がテスト近いから増えてるんだと思う。 高校生っぽい人多いでしょ?」
「ほんとだ」
「まあ勉強するスペースはあると思うから探そうよ」
「うん」
俺たちは小声で会話しながら席を探す。 どうせなら端とか奥の目立たないところがいいよな。 同じ中学校の人に見られたら、デートだって思われるかもしれないし。
「あ、あそことかいいんじゃない?」
「いいね。 あそこにしようか」
松田さんが見つけた席へと座る。 端の方ではないけど、けっこう目立たない席に座ることができた。 周りもお年寄りか勉強してる社会人みたいな人しかいないし、落ち着いて勉強できそうだな。
「じゃあまずなにから勉強する?」
「私は理科から勉強したいな。 苦手科目だし、テスト初日にあるしね」
「なら理科からしよっか。 俺も苦手だし」
「分からないところあったら一緒に勉強する感じでいい?」
「それはいいんだけど……俺あんまり力になれないと思うよ?」
「別に大丈夫だよ。 私も力にはあんまりなれないと思うし。 こうやって勉強して、お互いサボらないようにするだけで、充分いつもより勉強できると思うから問題ないよ」
確かにそうだな。 友達とだと、ふざけたりしそうだけど、松田さんとならそれはなさそうだ。 俺には友達とのノリを松田さんとする勇気はないしね。
「じゃあ、がんばろうか」
「うん」
俺たちは一緒に勉強を始める。 分からないところはスマホを使って調べたり、図書館の本を見て調べたりした。 元々あんまり頭が良くない二人だが、なんとか協力して調べ、少しずつだが勉強も進んでいった。
「この本の解説分かりやすかったからちょっとコピーしてくるね。 松田さんもいる?」
「欲しいけどいいの?」
「いいよいいよ。 どうせついでだしさ」
勉強を始めて1時間。 良い資料があったから、トイレ休憩も兼ねてコピーしに行くことにした。
確かコピー機玄関近くにあったよな? 俺はトイレに行って用事を済ませた後、コピー機へと向かう。 ふむふむ。 コピー1枚10円か。 全然大丈夫だな。
俺は財布からお金を取り出し、コピー機に入れる。 本の向きとか間違えないようにしないと。 間違えたらお金もったいないぞ。
「あら、春名くんじゃない。 こんにちは。 春名くんも勉強しに来たの?」
「えっ?」
俺が動いているコピー機をぼーと見ていると、後ろから聞き覚えのある声に話しかけられた。
後ろを振り返る。
そこにいたのは私服姿の村上さんだった。
「まさかここで会うとは思わなかったわ」
そう言ってこっちに近づいてくる村上さん。 私服のせいかいつもより大人っぽくみえ、高校生のお姉さんに話しかけられたような感覚だ。
「俺もここで村上さんに会うとは思わなかったよ。 村上さんもテスト勉強に来たの?」
「そうよ。 ここは本がいっぱいあって静かだし、私の好きな場所だから」
「そうなんだ」
図書館が好きだっていう気持ちは分かる。 いいよね静かで落ち着いてるこの感じ。
「そうだわ。 ここで会ったのもなにかの縁だし、少し春名くんがいる席の方に行かせてもらおうかしら。 いい?」
俺がそんなことを思っていると、村上さんから提案がくる。
俺が一人で来てるなら別にいいんだけど、今は松田さんと一緒にいるからなぁ。 ここで友達である村上さんと出会うのは、松田さんにとって少し恥ずかしいんじゃないだろうか?
実際は違うとはいえ、客観的に見ると恋人同士が一緒に勉強してるようにもみえなくないし……やばい。 なんか俺まで恥ずかしくなってきた。
でも、ここはどう切り抜けたらいいんだ? そのお願いを断るのもなんかおかしいような気がするし、なにか隠してるって思われるんじゃないか?
「あ、鈴もいるじゃない」
俺が悩んでいると、村上さんが松田さんを見つける。 村上さんの目の先を辿ると、見ていた本を片付けようとしている松田さんがいた。 なんでよりによってこのタイミングで!?
「凛! なんでここに凛がいるの! こんなところで会うなんて!」
「鈴。 びっくりしたのは分かるけど、ここは図書館よ。 静かにしないと駄目じゃない」
「あ、ごめん……」
特別大きな声じゃなかったとはいえ、静かな空間には響くぐらいの大きさだったからなぁ。
松田さんは周りのお客さんに向けて頭を何回も下げる。 俺も村上さんも続いて頭を下げた。 俺たちがうるさくてすみません。
そんな思いが伝わったのか、こっちを見てた人は気にしないでという意味なのか、手を振ってくれたり、大丈夫マークを送ってくれた。 ほっ……優しい人たちで良かった。
「ここで話すのも迷惑になるわね。 鈴、あんたここにはテスト勉強にきたの?」
「あ、うん、そうだけど」
「あたしもなの。 春名くんも一緒らしいから、どうせなら一つに集まって勉強しましょう。 で、終わったら少しお話しでもしましょうよ。 それでいい?」
「あ、分かった」
「春名くんもいい?」
「う、うん」
「じゃあ荷物取ってくるからそこで待っていてくれないかしら? すぐに戻ってくるから」
村上さんは早歩きで荷物を取りに行く。 あ、これはもう俺にはどうすることもできないや。
「あはは……なんかあっという間に三人で勉強することになったね」
「そ、そうだね。 でも、松田さんはいいの? 俺と一緒に勉強してること知られて」
「ま、まぁ男の子と二人っきりで勉強してたの知られるのはちょっと恥ずかしいけどさ、 別にいけないことしてるわけじゃないし、堂々としていればいいと思う。 大丈夫。 凛は私たちを見て興味本位で噂を流すような子じゃないから」
「そうなんだ。 なら、問題ないね」
「うん。 大丈夫。 むしろ凛が加わることによって、私たちの勉強会は更に良いことになると思うよ。 だって凛、理科のテスト前98点だったもん」
「え、まじで?」
「まじのまじだよ」
俺が口をあけてポカーンとしていると、村上さんが戻ってくる。
まじか……村上さん頭がいいのは知ってたけど、そんなに勉強できるのかよ。
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