第19話 独り言
さて、何を着て行こうか?
迷うな。
とは言っても持っている服は沢山あるわけではない。
だが、以前に九重先輩の私服を見ているから、あまりにダサい服を着るのは自分が惨めになりそうだ。
家の外では自然と気合が入るのだが、どうして家の中ではこんな隠キャみたいになるんだろうか?
……まあ、自分でも意識していなかったが、元から隠キャの素質があったということだろう。
今更ながら、考えると田中にあの件で巻き込まれなかったら自然体で隠キャ生活を送っていただろうし、気づけば卒業していたといったこともあり得たわけだ。
しかし、この頃は何もなくてつまらないよな。
まあ、平和ということなんだけど俺としては健全な生徒会活動なんて柄でも無い訳で、苦痛としか思えない。
事件や揉め事がある時だけの用心棒役は普段は表の健全な方々のパシリな訳だ。
田中のように生徒会の中に好きな異性がいるのなら、どんな事でもこなせるのだろうが、生憎と俺にはそんな気持ちは全く無い。
九重先輩も学内ではアイドル然としていて、ほとんど話すこともない。
あちらから近寄って来なければ、取り巻きが多すぎて、ほぼ姿を見るのもチラリとしか見えない。
彼女が生徒会のパートナーとは未だに思えないんだけど、こらから会うんだよな。
スマホで写真撮って横流ししようかな?
私服姿の九重先輩なら結構高く売れるだろうし、それとなくチャレンジしてみよう。
しかし昨日も事件は無くて、生徒会では雑用を任せられた。
2年生の書記がパソコンで作った資料をプリンターで印刷し一部ずつホッチキスでとめていた。部数は先生方と生徒会役員分で約30部。
職員室にある高性能なコピー機でソートとホッチキスとめを使用すれば簡単に綺麗に仕上がる。
全くもって効率が悪い。
それを何事も経験することが大切だと言い切る生徒会顧問の先生の顔面に一発ほど拳を入れると次から楽になるかな?
先生にも痛い経験は必要だよな?
ふつふつと妄想だけは浮かび上がるが、実際にしてしまうと停学か退学になるため、妄想までで済ましている。
やっぱ暴力は洒落では済まされない。
……つまらん。
なんか事件でも起きないだろうか?
ここのところ、色々目まぐるしく動いたから平穏無事な日々が辛くなっている。
果たして、今日は多少は楽しめるのだろうか?
それともまた苦しめられるのだろうか?
……まてよ、もしかしたら事件かもしれん。
そうか、だから九重先輩はお出かけにかこつかて俺を誘ったということなのか?
あぁ、俺はなんて頭の回転が悪いんだ。
それなら、ジーパンに黒シャツでいいか。
黒シャツは血が付いても目立たんし、重宝する。
あとはスニーカーか、それともスニーカータイプの安全靴がいいか?
どっちにしよう。
安全靴は靴の先が曲がらないから歩くと疲れるが、目立たない武器にもなる。
しかし、相手を追いかける時はスニーカーが有利だ。
んー?
まあ、武器はどこでも手に入るから、普通のスニーカーにしよう。
さて、そろそろ出ないと間に合わないな。
ジーパンの腰の部分に警棒タイプのスタンガンを差し込み、シャツで隠すと、そそくさと玄関に向かう。
足取りが軽いのは、これから起きるかも知れない争い事にワクワクしてのことなのか、それとも学外での九重先輩の私服姿を愛でる事なのか、どちらが理由なのかは俺本人にもわからない。
色々と不満はあるものの、1人だけで過ごしていた時より、意外にも今の生活には満足している。
もしかして、……俺は寂しかったのかなぁ。
いや、いや、そんな事はない。
そう否定しながら頭を横に振って激しく否定すると玄関に向かう。
開いた扉の向こうは青空が広がっていて、今日一日を祝福しているようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます