第18話 デートっすか?

 さて田中から嫌なことを言われたのだが、ほぼ回復した。

 田中の話が本当なら自分を偽ることもしないでもいいということだろうな。

 隠キャになるための長い前髪すだれをワックスで後ろに流して、明日から登校しちゃおうかな?


 結構我慢していたからこのぐらいは許されるはずだし、やはり俺は俺なりのポリシーを体現する良いきっかけと思って前向きに考えよう。


 さてさて、放課後になるが本日は何をしよう?

 久々に単車を転がして風を感じるか?


 おっ、いいね。

『風を感じる』なんて風雅な言い回し、これぞ青春だよなー!

 なら、高速を飛ばして少し遠くまで遊びに行こう。


 心の中でウキウキしながら上履きを下駄箱にしまい、ローファーに片足を突っ込んだ時点で呼び出しをくらった。


「1のBの藤井君、至急、生徒会室に来てください。繰り返します……」


 ……ありゃ、これは仕事か?

 九重先輩の声だったような?

 無視したいが後が面倒にならないか?


 とりあえず連絡だけしておこう。


 胸ポケットから支給されたスマホでかけた。

 相手は九重先輩で、もち断るためだ。


「プルルル……。あっ、藤井です。なんか用っすか?」


「あら、あなたまだ来ないの? 私はずっと待っているんだけど?」


「いや、なんも約束してないじゃないんですか?」


「そうね。約束はしてないけど、あなたは私のパートナーでしょう? それも忘れたの?」


「いや、それは分かってますけどね。今日は何ですか?」


「あなたが指示したことでしょう!」


「ええっと、それって誰かと一緒にいるというアレのことですか?」


「それ以外にないでしょう。だから今どこにいるの? 一緒に帰るわよ!」


「えっと九重先輩は誰か女子の、同級生と帰らないんですか?」


「まあ、普通ならそうするけどね。前みたいになった時には女子だけでは無理でしょう」


「じゃあ、電話代が勿体無いし、玄関まで行くから待っててよ」


 プツ、ツーツー。



 ……ふむ、言いたいことはわかるのだが、それなら昨日やら一昨日はどうやって帰ったのかな?

 仕方ないか。

 九重先輩ほど狙われる人もいないしな。

 ととっと送って、やっぱ遊びに行こう!


 約五分後に九重先輩は現れた。


「待たせたわね」


「いいえ。それ程でも、ありませんが、ちなみに……」


 俺が気もの言葉を投げ掛けようとしたら予測していたようで、先制パンチを喰らってしまった。


「昨日も一昨日もお母さんに迎えにきてもらいました!!」


「なら、今日もそちらが安全で「あなたの言うことはわかるけど、私がお母さんになんて言われたか想像つくの?」」


「いや、全然」


「そう、お母さんからね。あなた、かずくんから捨てられたの?って言われた私の心はどうしてくれるのよ? もう甘味処のはしごでは済まないわ。だから、あなたを許すためにも私の気持ちを満足させなさい!」


 ああ、九重ママさんならそう言いそうだな。

 つーか、九重先輩ってば、ぼっちなのか?

 連れて帰ってくれる男の一人も居ないとは残念だよな。特に顔が良いだけに、残念さんかな?


「ちょっと藤井君、声に出てたわよ。これってどう償うの?」


「えっ、声に出てた? あー、やっちまったか。なら、仕方ない。九重先輩の要望を一つ叶えるのではどうでしょうか?」


「んー、なら次の土曜日にあなたを貸し切りね。それでまけとくわ」


「それって、所謂デートってもんですか?」


「いーえ、私の買い物の下僕と思いなさい!」


 ということで、九重先輩と下僕契約が成立してしまうのであった。

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