第20話 デート
さて、今日はどうしよう。
九重先輩との待ち合わせは11時に前に田中の代わりに待ち合わせた公園のベンチ。
あちこちのベンチにはいつものように人が屯している。
広場の木々も紅葉して、行き交う人に秋になったことを告げている。
そんな中、夜は冷えるとのこと。
厚着は嫌いだが、今日はジャケットを羽織った。
そらにバイクを使ってない。
特に理由はないけど、久しぶりに髪の毛をセットしたからかな?
……なぜそうしたのか、自分でもわからん。
少なくとも浮かれている自覚はない、はずだ。
だが、九重先輩を意識しているのは否定できない。
何故だか、それこそわからん。
色々と考えごとをして歩いていると、気付けば待ち合わせの場所に着いていた。
待ち合わせの時間まであと15分か。
少し早く来すぎたな。
これもあの時と同じみたい。
過去の思い出がふと頭の中に浮かび上がる。
あー、九重先輩ってとても気さくなお嬢だよな。
おまけにお茶目でとても女の子っぽい匂いがして、多少あざといけどやっぱ可愛いよな。
それに、あの笑顔には正直言ってたまらんよ。
男子からの人気が凄まじいのは良くわかる。
こんな関係になるとか全く思わなかったし、今日の予定もまだ信じられない。
いつの間に寝ていたのだろうか?
それに、俺の肩に頭を乗せて、寄り掛かっているのはどこぞのマスコットではないか。
何故こうなった?
サラサラの髪が俺の顔を撫でるように風になびく。
当然、とても良い香りも纏わり付いてくる。
「……んふっ」なんて言うな、ビクッとするじゃないか。
いま起きられても気まずいだけだ。
とはいえ、ずっとこのままというわけにもいかない。
しばらく待つが、あまりにも気持ち良さそうなので、気づいたら2度寝していたらしい。
「おはよ」
「えっ、ええっ?」
「かなり寝てたよ?」
「いや、いや、そうじゃないけど、……そうなんですか?」
「だって、私も少し寝ていたみたいだけど、目が覚めたときにかず君てば、まだ寝てたんだよ?」
「そう、なんですね。ご迷惑をお掛けしました」
俺が途中で起きたことを伝えると、気まずくなるみたいだな。
これは言わない方が正解だと直感した。
少しばかり九重先輩に謝りつつ、強引に昼ご飯に行こうと手を握る。
目を丸くして無言となった九重先輩は『ふぅー』と一息吐くと前を向いてリクエストされる。
「お昼は、お好み焼き食べたい!」
その一言は俺の動揺も吹き飛ばしてくれた。
なぜ手を出したのか?
そんなん『わかんねー』の一言だ。
「さあ、食べるぞー」
「ふふっ」と、隣からの微笑みが心地いい。
お互いのトッピングを交換しながら新たな味に舌鼓をうつ。
互いに事件のことは口にせず、来週からの授業やら秋のイベントのことを話し、踏み込んだ話を意図して避けた。
俺も九重先輩もメンタル面で意外にも疲れていたようで、何気に軽い話だけで終始して相手のコンディションを把握することを優先した。
とりあえず、パートナーとしての大切な時間を過ごすいい機会を先輩が作ってくれたんだと俺でも理解できた。
珍しくも、ゆったりした休憩を俺たちなりに味わうことになったのだった。
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