第13話 一夜明けて
昨夜の事はよく覚えていない。
というか、覚えているが、あまり思い出したくない。
夢乃先輩がしぶしぶ目隠ししながら水着で背中を流してくれるという話になりかけたが、それをするなら家に帰ると告げ、騒動は収まった。
万一、そのまま誘惑に負けてしまい、九重先輩に背中を流してもらっていたことが学校の誰かに知られたら俺の居場所が無くなってしまう。
腕力だけでは居場所はつくれない。
学校ってそんな場所だ。
だから、この話も未遂だが、俺ら2人だけの秘密ということにした。
しかし、あらためて見るが、九重先輩のスタイルは抜群に良い。
顔も頭もスタイルも良いとは、誰が付けたのか知らんが我が校のマスコットには適任だ。
あのマスコットの色白で、引き締まった太腿はとてもスベスベしていて弾力もありそうだ。
『少しだけなら手を伸ばしてもいいのではないか?』と思っている輩も多いに違いない。
九重先輩が自室に引っ込んだあと、九重ママと少し雑談したまでは良かったのだが、その先は記憶がない。
いや、事実を言うと九重ママさんが自分用のビールを開けて、半分程飲んだ後、ウトウトし始めたから……つい、ね!
…………ほら、もったいないから缶の中の残りを頂いた。
まあ、本音は誘惑に負けて、ついつい飲んでしまった訳で、グラスと缶を流しで濯いだ後に九重ママを起こして自室にお引き取りしてもらいました。
だからと言って、この状況を理解できないし、受け入れたくもない。
横に九重先輩が寝ているという状況、しかもしっかりと後ろから腕をまわされて抱かれているという形は男としては色々なところが緊張している。
なぜ、こうなった?
俺は客間に寝たはずだが?
窓の外がアイボリーのカーテンを通して薄明くなってきた。
スースーという寝息が聞こえていたが、それは突然襲ってきやがった。
「んっ、あはっ」
九重先輩から色っぽい寝言。
体が、特に首から上、それに背中がビクッと反応する。
こらっ、耳元で変な声を出すなよ。
もう勘弁してくれ。
白く細い指を一本ずつ外し、九重先輩に気付かれずに部屋から出てリビングに入ると、九重ママが台所で洗い物をしていた。
「あら、おはよう。早いのね?」
「おはようございます。いや、九重先輩が俺の部屋にいるんですよ。これをわかってて一緒にいる方がおかしいでしょう?」
「まあ、ホント? 私が寝ぼけた夢乃に今日は客間で寝るんでしょう?って言ったからかなー? でも、ホントにそうするなんてね。かず君、あなたはかなり夢乃から好かれてるみたいですね。娘をよろしくお願いします」
頭を下げ、お願いされるが答えは決まっている。
「あっ、いえ、俺は九重先輩には釣り合いませんよ。生徒会の仕事はしますから、それは大丈夫です」
あらら、という顔の九重ママさん。
俺のことを買ってくれているんだろけど、それはかなりの役柄だ。
九重先輩なら、もっと王子みたいなイケメンが適役だ。
「ふふっ。そう、でも人の好みは色々あるからね。現にイケメンが嫌いな娘もいるんですよ。私もこう見えて、娘には甘いから、全力で応援させてもらうからね!」
話半分聞いて、俺はソファーに横になる。
まだ起きるには早すぎる。
……つまり、ああなった原因はママさんか。
なら、先輩への言い訳の最後の逃げ場はあるわけか。
しかし、何故、俺なのだろか?
そう考えている中、急激に睡魔に襲われた。
もしかするとママさんから頂いた水の中に何か入っていたのだろうか?
スースー。
いつの間にか寝ていた。
むくっと起き上がると、かけられたタオルケットが足元に落ちた。
「やっと起きたの? もうご飯の時間だし、あと15分で支度しないと遅刻します。大丈夫?」
ふと見た時計は8時ジャストだ。
ご飯はいらない、と言いたいが、この家ではそれは言えない。
茶碗のご飯をふた口で口に入れ、味噌汁で流し込みながら、もうこの家に泊まるなんてしないと心の中で強く誓った。
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