第9話 6月⑨

 一週間がたった日曜日。梅雨に入ったらしく雨の日が多かったことと、雨が降らなかった日も、お互いちょっとした用事があったりした為、あの後公園に寄ってはいない。

 かえでのことは気にはなっていたが、快方に向かっているのだろうと勝手に思っていた。



 今日は優香が家に来る。うちの母親が昔、ビアノの講師をやっていたので、たまに優香が習いにやってくる。とは言っても優香はもう十分ピアノは上手いので、習いに来るというのは口実で、女子会を開催するというのが本当の目的だ。優香の他に、母親の友達や教え子などが集まり、ワイワイやっている。今日も優香の他に二、三人来るみたいだ。当然俺は邪魔者なので、部屋に閉じこもったり、遊びに行くなどして時間をつぶすことになる。父親も朝早くからから家を追い出され、どこかに出かけたみたいだ。俺は部屋で動画やマンガを見て過ごすことにした。


 お昼を少し回った頃優香が部屋にピザを持ってきた。


「はい、響平の分のピザ」

「おお、サンキュー」

「響平もみんなと一緒に食べたらいいのに」

「いやいや、みんなの邪魔はできないので部屋に引きこもります」

「全然邪魔じゃないよ。それに響平と響平のお父さんの話で盛り上がってるよ」

「ではなおさら無理だ。俺のことは気にせず女子だけで男子の悪口を楽しんでください」

「悪口じゃないもーん。じゃあ気が向いたら参加しなよ」

「ああ。気が向いたらね」

「うん。待ってるからね」


 優香はそう言うと女子会に戻っていった。父親の話は気になるが、女子会に一人だけ男がいるのはやはり気まずい。参加は見送り決定。


 それからまた部屋でダラダラしていたらいつの間にか眠ってしまっていたが、ドアをノックする音で目が覚めた。時計を見ると午後三時だった。ドアを開けると優香が立っていた。


「響平、寝てたでしょう?」

「あぁ、なんか寝ちゃってたわ」

「もう。みんな待ってたのに来ないんだから」


 優香は少しガッカリした表情を見せた。


「当たり前だろ。女子会に参加できるわけないじゃん。そんなことより何か用?」

「あっひどい言い方。美味しいお菓子を買ってきたから、響平と一緒に食べようと思ったのに」


 優香はちょっとだけふくれっ面をした。


「あっそうなの、ごめん。じゃあ飲み物取ってくるから中で待ってて」

「うん、わかった」


 俺は優香を部屋の中に入れ、飲み物を取りに行った。部屋に戻ると優香はちょこんと座っていたが、キョロキョロしていて挙動がおかしかった。


「なにキョロキョロしてるの?別に変なものなんかないぞ」


 俺が缶ジュースを優香に渡すと、


「いや、あの、違うんです。あ、ありがとうございます」


 そう言って缶ジュースを受け取った。あきらかにおかしい様子の優香を見て俺は確信した。


「かえでちゃんだよね?」


 そう聞く俺に、


「はい、かえでです。ごめんなさい、また来ちゃいました」


 かえでは少し頷くと、申し訳なさそうな小さな声で答えた。














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