第2話 6月②

          ◇◇◇


 午後六時半。部活動が終わり、先に帰る準備が出来た俺は駐輪場で優香が来るのを待った。二人とも同じ吹奏楽部で、家も比較的近いので、だいたいいつも一緒に帰っている。


 しばらくすると優香が走って駐輪場に来た。


「ごめん、遅くなっちゃった」

「いやー、遅いから先に帰っちゃおうかと思ったよ」

「そうやって意地悪言うんだから。別に先に帰ってもいいんだよ」


 優香はそう言うとちょっとふくれて見せた。


「ははは、冗談だよ。早く帰ろう」

「うん」


 いつも通り優香が前を走り、俺がその後をついていく。優香は真面目な性格なので寄り道はしないでまっすぐ家に帰る。ただ、家の近くの公園で少し話をして、そこでさよならをするのが日課になっていた。

 今日も公園に着くと、自転車を停めベンチに座ったのだが、そこでふと朝のことを思い出した。


「そういえば、全体朝礼の内容ってなんだったの?」


 今日一日、優香と話すことは何度もあったが、一時限目の嫌いな数学の授業で、すっかり朝礼のことを忘れてしまった為、内容は聞きそびれていた。


「その事なんだけど……」


 そう言うと優香は朝と同じように表情を曇らせた。


「あのね、うちの学校の二年生の子が交通事故に遭っちゃって、それで意識不明なんだって」

「そうだったんだ」


 詳しく話を聞くと、二年生のバレーボール部の女子生徒が自転車で帰宅途中に事故に遭い、意識不明の重体。女子生徒の一日も早い回復を願うのと共に、みんなも交通事故には十分気を付けるようにというのが朝礼の内容だったようだ。


「早く意識が戻ればいいんだけど」

「うん」


 優香は優しいので、きっと心を痛めているのだろう。


「私たちも気を付けようね」

「そうだね、気を付けよう」


 それから雑談を少しして公園を後にした。


「じゃあまた明日、学校でね」

「ああ、また明日」



 それから二時間後。夕食などを済ませ、自室でくつろいでいるとスマホに誰かからメッセージが届いた。


『話したいことがあるので、これから公園にきてもらえませんか?』


 優香からだった。

 俺は電話かメッセージではいけないのか確認したが、どうしても会って話したいということなので急いで公園に向かうことにした。

 家から公園までは自転車で二、三分の距離だ。自転車を走らせながらその短い時間で俺は考えた。


「会って話さなければいけないことって何だろう?」


 急ぎの用でなければ明日学校で話せばいいし、そもそも電話やメッセージではなくて直接話す内容って、全く見当がつかないなぁ。

 そんなことを思いながら自転車をこいでいると公園に着いた。自転車を停め、中に入り、街灯に照らされたベンチの方に目を向けると、優香がぽつんとベンチに座っていた。


「優香」


 俺が声をかけると


「あっ、響平さん」


 そう言って優香は立ち上がった。








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