ストロベリームーン
中田 浩也
第1話 6月①
『臨時の全体朝礼の為、体育館に集合』
誰もいない静まり返った教室の黒板にはそう書かれていた。あふれでる汗をハンカチで拭きながら、呼吸を整えるべく深呼吸を数回して自分の席に着いた。
寝坊をしたわけではない。ただなんとなく家を出るのが遅くなってしまい、自転車を必死にこいでホームルーム一分前に到着した学校。階段をかけ上がりチャイムと同時に飛び込んだ教室。目に映るいつもとは違う光景に一瞬とまどったが、その理由はいたって単純なものであった。
「ふーっ。さてどうしようかな……」
黒板の文字を眺めながら考える。本当ならすぐに体育館に向かうべきだろう。しかし、今から行っても朝礼は始まっているだろうし、そんな中ガラガラと重い扉を開け一人中に入っていくのには抵抗がある。
「よしっ、みんなを待とう」
答えはすぐに出た。いや、ほぼ一択なのだから考える必要もなかったのかもしれない。
そうと決まればあとは朝礼が終わりみんなが戻ってくるのを待つだけなのだが、何もすることがなく、あまりにも退屈な時間に、汗も呼吸も収まった頃に眠ってしまっていた。
「へい……うへい……きょうへい、起きて、響平!」
名前を呼ぶ声とともに、体が激しく揺さぶられる。目を擦りながら見上げると、目の前には隣の席の早乙女優香が呆れたような表情で立っていた。
「あっ優香。おはよう」
「おはようじゃないでしょ。遅刻してきたうえに気持ちよさそうに寝ちゃって」
そう言うと優香は自分の席に着いた。
「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、チャイムと同時だったので、ギリギリ遅刻ではなかったんたけど……」
「朝礼に出てなかったんだから遅刻でしょ。もう信じられない」
優香はため息混じりにそう言うと、教科書をカバンから取り出し一時限目の授業の準備を始めた。
「まあ、そう言われたらそうなんですけど」
「遅刻は遅刻。響平は遅刻ギリギリの時が多いんだから、もっと時間に余裕をもって来ないとだめだよ」
「すみません。以後気を付けます」
「素直でよろしい。明日からは15分早く家を出なさい」
「はい、わかりました」
「ふふふ」
そんなやり取りをしながら一時限目授業が始まるのを待っていたのだが、肝心なことを聞き忘れている事に気がついた。
「そういえば、臨時の朝礼って何だったの?」
すると少し前まで笑顔だった優香は表情を曇らせた。
「あのね、朝礼の内容なんだけど……」
優香がそう言いかけると始業のチャイムが鳴り、同時に先生が入ってきた。
「起立!」
日直が号令をかける。
「後でね」
「うん」
こうして朝礼の内容は分からないまま一時限目の数学の授業が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます