第十八話

「……!?」

「? 三十二番の方、どうしました?」

「あ……いえ、スミマセン」

「では、開始してください」

 何かを聞いたような気がした。気がした…違う、たしかに聞こえた。

 ……リィの声。確かに聞こえた。僕を呼んでいるような、泣いているような、笑っているような。

 よく解らないけれど、なんだかとっても。

 勇気、出せる気がする。

 ねぇリィ、伝わってくれているかな。僕は今、オーディション会場にいるよ。信じられないけれど逃げ出さずにこの場所にいる。ギターを抱えて、人に聞いてもらいたくて歌おうとしている。


 僕は今までどうしてか、そうせずにはいられないような衝動と一緒に曲を作り上げてきた。それは、創るのが好きだったから。誰かに聞いてもらうなんてとんでもなかった。そんなコトは出来なくて、自己満足だけを求めて。認められたいとか、これで食べていきたい、とか……そんなコトは何も考えていなかった。

 気付いたら、僕の側にあったのはギターだった。

 気付いたら、やりたい事はこれだけだった。

 だから、それでよかった。『誰か』に聞いて欲しいとなんて思っていない。ただ、『僕』が創りたかった。聞きたかった。自分の好きな歌を。曲を。詩を。

 けれど僕は君に出会ってしまったんだ。君のあの言葉を聞いてしまったんだ。

『スッゴイね!』

『凄くカッコイイ!』

『あたし、隆介の音って好きだし。なんか色んなコト話しかけてもらってるみたいで』

 やっと届いたよ。コトバの意味。

 僕は言った、『それはリィがトンでもない数の曲を聴いていないから』って。そしてそれが『妬ましい』と。僕は沢山の曲を聞きすぎた所為で、どれを聴いても同じような曲を思い出してしまうから。だから、誰かに聴かせるコトなんか出来なかった。……盗作だと、思われそうで、それが怖かったから。だからそんなコトを思い浮かべない異世界の君が羨ましかったのかもしれないね。

 けれど、ちょっと変わった。君は時々キーボードで作曲みたいなコト、してたよね。僕もそれを聴いていた。それと似たような曲は沢山あったけれど、


 リィはそれを知らないハズだよね。


 けれどリィは、そんな曲を創って見せた。

 おかげで見方が変わったよ。音階なんて無限でもないし、和音なんかを入れたってそんなに多くはない。音は、いくらでもあるワケじゃない。そんな少ない『音』なんだから、少し似たようなモノが出来たって……当たり前なのかもね。言葉と同じ。違う国の間にだって、偶然同じ発音の言葉はあるんだし。 だから、大事なのは意味。

 その音に込めた気持ちや、意味。それを表す詩。合わせる歌。


 それで、僕の『音』が創られていく。


 やっと届いたよ、君の声。君が言ってくれた言葉のタマシイ。

 スゴイ、って。

 本当にそれだけの意味で伝えてくれたんだね。本当にそれだけ。本当に、それだけの想いを僕に教えてくれたんだね。そして言ってくれたんだ。『話しかけてもらっているみたい』と。僕の音の中に込められた声を聞いてくれたんだ。

 やっと自分を認められそう。色んなコトがあったけれど、やっと自分に笑いかけてあげられそう。でも、その前にやっぱりね。


「三十二番、高井隆介。趣味は作詞と作曲、ギターも弾けるオールマイティです。自信はあるようでまったくナシ……どーぞ、ヨロシク」



 君に、逢いたい。

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