第六話

「どーかな、似合うかな? ね、どう? ルワンっ!」

「あーはいはい、さっきから何回聞いてんだ?そんなにイイモンかねぇ……その貧相な赤い布っきれが」

「『布っきれ』じゃないよ、『リボン』ってゆーんだって何回も教えてもらったでしょ!」

 あたしはルワンにそう言い返しながら、何回も何回も鏡の前で『リボン』を直す。


 …じゃじゃーんっ、リィちゃん髪型かえましたっ! あのねあのね、隆介があたしにリボンくれたんだ。それが付けられるよーに、ポニーテールにしてみました! 出遭えた記念に、とか言われて……かなり照れたりしてるんだけれどさ。いつもひっつめた三つ編みだったから、ウェーブのかかったポニーテールなんだよね。自分が変われたみたいで、凄くそれが嬉しいの。

 なんだか、優しくて正しくて、ちょっと厳しい隆介なんだけど。あたし、なんかあいつを気に入っちゃったみたいで……さ。イロイロと。

 この感情。もしかして、『好意』ってゆーのかな? あはは、ヘタすると真ん中一文字抜けて『恋』になっちゃうかもしんないね。

 けれどまだ、誰にもこの気持ちは秘密なの。

 ……発展途上の想いに、名前なんてまだいらないもんね。


「なぁ、そろそろココ出て行こうぜ? 絶対そろそろディアーネの手が回ってくるって」

「もー、ルワンったらまぁたその話? まだ一ヶ月しか経ってないんだから大丈夫だよ! なんか最近おかしいぞっ?」

 ルワンはここ何日かずーっとあたしに『移動コール』を続けている。一体何があったのかはわかんないけど…とにかくココに居るのがイヤらしい。

 あたしは好きだけれどなー、折角隆介に教えてもらってキーボードとか弾けるようになったんだし、もっと練習して隆介と一緒に合奏とかしてみたい。へへへ、いいよね、そういうの。今のあたしの、とっても小さくてちっぽけな夢なんだ。

「大体出て行く理由なんかないじゃん、あたしはココ、結構好きよ? 暮らしやすいしね」

 何より……ここに居る人も、好きだしね。

「じゃあ、あと一日! それだけでイイだろ!?」

「もぉ…いーかげんにしなさいよルワン! ココの何がそんなにイヤなのさ!?」

 あたしはそのしつこさに、思わず怒鳴り声をあげてしまった。

 星がベランダごしに、あたし達のやりとりを見ている。

「馬鹿リィ……お前、すっげー馬鹿だっ! いーよ、オレだけ出て行くっ!」

「え・ちょっとルワン!?」

 言うが早いか、ルワンは窓ガラスをすり抜けて……

 夜の中に、溶け込んで行ってしまった。

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